高杢海斗、為す術もなく渦中に佇む縁 1
マイナークラブハウスのUNO勝負
夏合宿は、初日から燃えていた。
「ウノ! 緑。」
と三浦先輩が言い、ワイルド・ドロー4を出した。
「え~? 三浦先輩、さっき青出しかけてなかったっけなー……」
と、口を尖らせてゴーヘーが呟く。
「うるさいよゴーヘー。文句があるなら、ヤマダ自身がチャレンジするんだから、おまえは黙ってる。」
「へー。でも、怪しいなー?」
「どうするヤマダ、チャレンジする?」
「うーん……ま、いっか。わりーな遊佐、黄色!」
と言ってヤマダ先輩が、自分もドロー4を出した。
「ゴメン、鈴ちゃん! 青!」
遊佐が、非常に苦し気な表情で、またまたドロー4。しかし、大村さんもすかさず、
「黄色!」
「ゲ! まじかいなー!!」
と、ウクレレ部の新入生、吉田蓮が大げさに仰け反る。
ハワイ人の血を引く貴公子、松野“ラルフ”和正先輩→その愛弟子、大村さん、と続いた、格調高きわが桃李学園ウクレレ部に……コテコテのウクレレ漫談を持ちこんだ、今年いちばんハイテンションの1年生。
「殺生でっせ大村先輩! じゅじゅじゅ、じゅうろくまい~」
「桃園会館において、勝負は常に真剣勝負なのですぅ!」
きりっとまなじり吊り上げて、大村さんは宣言する。
「チャレンジしますか?」
カードを胸に押しあてて、挑発する口調でいう。残り枚数、5枚。
「……ここまでハッタリかけとるのは、つまり……」
ぶつぶつと呟いてから、だん、と片膝立てて、どっかの名探偵みたいにビシッと指を突きつける。
「ちゃれーんじ! 大村先輩、青持っとるでしょー!!」
ちらりっ、と鈴ちゃんが、吉田だけにカードを見せる。
吉田、ばったり死ぬ。
「へーいへいへいへい♪ 吉田、18枚♪」
「すげーなオイ、これって新記録じゃねー? 場の札イッキになくなったよ。」
「おっ……おおきに、おおきに。ありがたくちょうだいさしていただきます!」
やけくそで、ひれ伏してカードの束を受け取る。その間にも、ゲームは着々と進行する。
「黄色6。」
と、吉田と一緒にウクレレ部に入った男子、守屋一成が、地味~に出す。常にしょうもないことを喋っている吉田と対照的に、こっちは日陰の花のように静かな、どこか女性的な美少年。ちなみに、ウクレレは初心者だ。
「ワイルド。……色はそのまま。」
と、思想研究会に入った三つ編みお下げの女子、上河内梨花。
「黄色ドロー2。」と、福岡さん。
「うわ、滝先輩、ひでえっ!」これはゴーヘー。
「ないです。とります。」←紗鳥ちゃん。
「黄色7、黄色7、緑7っと。」←沢渡先輩。
「あれ、でも美優先輩、さっき三浦先輩緑って……」
「大丈夫よぅー。こぉーんな大人数でやってる時に、ホントの色なんか、だぁああっれも言わないものー。ねー、三浦くぅーん?」
言われた三浦先輩、ふんふんと鼻歌を歌いつつ、天井の隅など見上げる。
「緑1、青1。」と、太賀が2枚重ねて出す。
「てーい! 青リバース!!」と、ぴりかちゃん。
「……ふーん。じゃあ、戻って、太賀。」
「青6。……ぴりかちゃん、ごめんね。」
「へ?」
「ウノ言い忘れー!!」
全員で、声を揃えて指を差す。ぴりかちゃんが残ったカードを放り投げて、
「ほうげあーーーっ!!」
と、絶叫する。
「あんた、頭ぬけてんじゃないの? なんで1日に3回も言い忘れるかなあ!」
と、福岡さんが苦笑いで言う。
「泣かないで、ぴりかちゃん……。ほら、あたしも青リバース。」と、沢渡先輩。
「青3。」と、太賀。
「うっうっうっ……。ない。2枚取っても……ない。」←ぴりかちゃん。
「じゃ、もう1枚取って……。僕も、ない。」←海斗。
「ワイルド。……緑。」←天野。
「え。」
全員、固唾をのんで、次の三浦先輩の方を見つめる。
果たして緑は、フェイクか、それとも……
「……ふっ。」
にたり、と三浦先輩が笑い、四角いメガネを、ちょいと押し上げる。そして残りのカードで口元を隠し、なにか、ドラマに出てくる平安時代の貴族みたいな高笑いをする。
「ふっふっふ……ふふふ……ふぉーっふぉっふおっふおっ。」
「あーあ天野、深読みし過ぎ……」
と、ヤマダ先輩が言いかけた時、三浦先輩は残ったカードを畳の上に伏せ、
「おまえなんかキライだキライだキライだ天野ーっ!!」
と言いながら、隣の天野の長い首をつかんで、ひとしきりぐらぐら揺さぶる。
「そう言われましても……勝負だから真剣にやれと言ったのは三浦先輩で……」
「ふんっ!」
と言いながら放免し、場の札から1枚とると、ちょっと機嫌を直して、即座に今とったカードを捨てる。
「ウノ! 緑リバース! 天野!」
「緑0、赤0ウノ、黄色0。上がり。」
「…………。」
「皆、熱心なようですが、そろそろ寝た方が」
「うるせーっ!!」
第一夜、就寝、午前1時……。
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