minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

5

  冬の夜の夢

 

 

「はぁーい。みなさん、そこにいますかー?」

 後ろで声がして、また一人、少女が現れた。

 携帯の灯りで、足元を照らしながらやってくる。この子だけが、まともな制服姿だ。

「黒パンとバゲット、買って来たよー。あと、ソフトドリンクもいろいろー。」

 その声を聞いたぴりかが、忍者の覆面をぱっと後ろにはね除けて、満面の笑顔で叫ぶ。

「ママー! おかえりなしゃーい!」

 そして両手を広げて、かおりの方へ駈けてきた。

 喉につららが突き刺さったような痛みを感じて、かおりは一瞬、息ができなくなる。が、次の瞬間、

「だれがあんたのママよ。」

 と、制服の少女が言って、重たそうなレジ袋を振り回して、ぴりかの頭をばこんと叩いた。

「ぎゃふん! タ、タキ、せめてパンの袋でやっちくり。」

「潰れるじゃないのよ、そんなことしたら。」

 口調は叱りつけるようだが、顔は笑っている。差し出した袋を、ぴりかがさっと受け取って、運ぶのを手伝う。

「ありがと。あー、重かった……。で、勝負はどっちが勝ったの?」

「えへへー、ドロボーぐみー!」

「そう。なら、ちょうど良かったじゃない。贈呈式は、美優先輩で行きましょ。」

「そうそう、実際、美優ちゃんが一番手柄だったしね!」

 と、海賊姿の少年が言って、パチパチと手を叩き始めると、他の子供たちも揃って拍手を始める。

「あ、ねえ、だったら、ここでやってもらってもいーい?」

 と、スーツ姿の少女が、場の中央に出て来ていう。

「ここで?」

「ほら。」

 と、空を指差す。

 雑木林の上に、上弦の月が出ていた。

 その場にいた子供たちの全員が、ほおおーっ、と嘆息する。

「ね、なんかすごい、いい感じでしょ?」

「うん、すごい……今まで、全然気がつかんかったなあ。」

「大気が澄んでるのかね。クレーターまで、はっきり見える。」

「そういえば空気うめー感じするし。」

「全力で走ったから、暑いし……まだもうちょっと、外にいたい気もするね。」

「よし、じゃあ、ここでやろう。」

 と、月代の少年が決定を下す。彼が一番、年長であるらしい。

「では、商品授与……ぴの字から!」

「ほいっ!」

 と元気に返事して、ぴりかが風呂敷を解きにかかる。

 中から出てきたのは、紙箱だった。

 大きさからして、あれは多分、今朝、うちのストッカーから出していった、頂き物の箱。その間に、他の子供たちが、ぐるりと輪を描く。

 やがて、輪の中央に、スーツ姿の少女とぴりかとが、向かい合って立つ。

「しょーひん、じゅよ。」

 とぴりかが、かしこまって言い、箱をスーツの少女に手渡す。

 スーツの少女も、まるで卒業証書でも受け取るみたいにかしこまって、それを受け取る。

 イスラム少女が、服の下から、小さな弦楽器を取り出して、演奏を始めた。それをバックに、歌が始まる。

「Happy Birthday to You

 Happy Birthday to You

 Happy Birthday Dear 美優ちゃん

 Happy Birthday to You!」

「おめでとー、美優先輩! 17歳!」

「美優ちゃんおめでとー!」

 わあっと歓声。拍手、拍手、拍手。喜びに輝く、美しい少女の横顔。

 寒さで意識が朦朧としてきたかおりが、これは多分、一幕の夢であるに違いない……と感じ始めたのは、だいたいこの辺りからだ。

 

 

→next

http://kijikaeko-mch.hatenablog.com/entry/5-6