6
宴
夢の子供たちは、その場で車座になり、箱を開けた。それは、お菓子の類いではなかった。
「しかし、でかしたな、ぴの字。こんなもの、よく持ち出せたな? えらいぞー。えらいえらいえらいっ!」
と言いながら、月代の少年がぴりかの頭を、犬にでもするように、ぐりぐり乱暴になで回す。ぴりかはそれを、
「えへー……」
などと言いながら、気持ち良さそうに、目を細くして受けている。
「なんなのか、よくわかんなかったんだもん。デパートの紙、かかったままだったしさ。」
「いくらくらいするんでしょうね、これ。」
ちゃぷん、と液体の揺れる音。透明なガラスのボトルに入った、透明な液体。
「黒パンって、薄ければ薄いほどいいの? 切り方は。」
「そうじゃねえかなあ、本来、クレープとかで食ったりすんだろ?」
「こっちは? どうやって食うんだ?」
と、泥棒の頬被りをしたままの少年が、別の箱から取り出した丸いものを、こつこつと打ち合わせる。多分、何かの缶詰だ。
「バゲットに塗るのよ、ペーストみたいに。」
「コルク抜き、誰が持ってんの?」
「知らない。さっきその辺に置いてあったけど……」
「置くなよー! こんな暗いんだからー!」
「あ、俺のナイフにカンタンな奴、ついてるっす。」
「紙コップ、配りまーす。あんまり数ないから、大事に使ってねー。」
がさがさと、背後からおかしな足音が近づいてきて、ちょうどかおりのもたれ掛かった木に手をついて、ぜえぜえと荒い息を吐きながら言う。
「みんな、ひどい! 僕、部室まで探しに行っちゃったじゃないですか!」
「おお、犬。」
と、月代の少年が言う。
「もとい、ヤマダ。どこでなにしてたんだ?」
「だから、みんなを探しに……」
「忘れてた。ヤマダくん、転んじゃったのよね、思いきり。」
スーツの少女が言って、犬を迎えにくる。
「それで死んでもらって、取り返せたのよ……。まあまあ、そう怒らないで。フォアグラもキャビアも、まだこれから開けるとこだから。」
「乾杯するぞ、早く来い。」
「赤ワインがいいひとー?」
「はーい。」
「ウォッカのひとー?」
「はーい。って氷はあるんだろうな?」
「僕、アクエリアス。」
「えー? 三浦先輩、ちょろー……」
「しょうがないだろう、体質なんだから!」
「ぴりかはクー飲みたーい。」
「はいはい、全員行き渡ったー?」
一瞬、しんと静まり返って、全員が紙コップを、月へと高く差し上げる。
「では。和琴部長、兼、歴研副会長、沢渡美優ちゃんの、17歳の誕生日を祝って……かんぱーい!」
「乾杯!」
「かんぱーい! 美優ちゃん、おめでとう!」
「ありがとう。ありがとう。あー、なんかすごくいい誕生日。すごくうれしい……」
「…………」
「…………?」
「…………!」
「…………(笑)」
会話が遠くなる。もう言葉は聞こえず、耳の中でくるくるまわって、潮騒のように響く。弦楽器の音がそこに絡まり、歌声や、ハーモニカ、それに、小さな太鼓のリズムが加わる。
リズム。奏が最後まで、手放さなかったもの。最後まで、憎まずにいられた、数少ないもの。
奏が、リズム。ぴりかが旋律。あの2人は切り離せない。多分、どちらかが死ぬまで。
(ソウかピリカのどちらかが、ではないわ、カオリ。ソウとピリカか、若しくは、あなたが死ぬまで……)
わたしが? どうしてわたしがそんな、恐ろしいことに?
(実際の死の話ではないのよ。でもプレイの中で、ピリカはこの問いを、繰り返し、繰り返し、演じつつけている……)
恐ろしい子、恐ろしい子、母親を殺す気なの!?
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