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発掘
会議机。
電気ポット。
扇風機。プラスチックの書類ケース。脚が1本ない人体模型。
イーゼルが幾つか。それに絵の具箱。熱帯魚の水槽と、酸素を送り込むポンプ。
ずいぶん旧式の掃除機。ゴミの取り出し口に、ガムテープを剥がした跡が無数にある。きっと、完全に壊れるまで、だましだまし、大事に使われてきたんだろう。
スチールの事務机。動かすと、引き出しがするすると開いた。中に、ガラスの割れたフォトフレーム。写真は入っていない。
傘がぎっちり詰まったポリバケツ。学生の忘れ物だろうか。持ち主が現れないまま、こうして捨てられていくのか。
へし折れたカーテンレール。埃で黒ずんだレースのカーテンの切れ端が、まだ、ちょっぴりぶら下がっている。そのすぐそばに、透明のゴミ袋に詰め込まれた暗幕が一山。
スーツケース。蓋は開かない。でも、この軽さから言って、中は確かに、からっぽだろう。殺された犬だとか、かくれんぼをして見つけてもらえなかった哀しい子供だとか、入っている気遣いはない。
錆だらけのマイクスタンドと、シールドがたくさん。めちゃくちゃに絡まり合っていて、ほどけそうもない。仕方なく、まとめて持ち上げる。けっこうな重量。
大型のペンキ缶。これも、すごく重い。多分、ほとんど使わないまま、古くなってしまったのだろう。その下に、どこかのサークルが学園祭で使ったらしい看板が何枚か。
その看板を捲ると、下に、パイプ椅子の層が見えてきた。
「もう、動くんじゃないか?」
汗と埃にまみれた顔をあげて、史惟は言う。
「うん……少し、ゆるくなったけど……まだ……」
懸命に体をよじりながら、畠山が応える。
「ちょっと見せて。」
月光を遮らないよう、反対側から、ゆっくり近づく。幾重にも積み重なったステンレスのパイプの上を歩くのは、けっこう骨が折れた。下手をすると、こっちも足を踏み抜いてしまいそうだ。
じっと目を凝らす。手を伸ばして、触れてみる。畠山の右足は、何本かのパイプが作り出した輪の中に嵌まり込んで、ギュッと締めつけられていた。予想していたより、ずっとひどい状態だ。急がないと、足の先が、壊疽を起こしてしまうかも知れない。
「こっちから押してみる。」
そう言って、できるだけ急いでパイプ椅子の層から飛び降りる。屈んで、椅子の塊に背中をつけ、ぐんと踏ん張る。
「どうだ? 抜けるか?」
「……だめみたい。」
「じゃあ、反対側からだ。」
回り込んで、そこでも同じことをする。ガチャガチャと、パイプがずれる音がした。
「あ……あ……動く……」
うんと背中に力を込めて、史惟は、その時を待つ。
それは、とても静かな、一瞬だった。
「ぬ・け・たー!!」
がちゃーんと後ろへひっくり返りながら、畠山が歓喜の声で叫ぶ。
史惟は、その場に、へなへなと座り込んだ。もしこの時、「今のお気持ちは?」などと聞いてくるようなバカがいたら、迷わず射殺したと思う。
腰が抜けたような状態で、しばらく呆然としてから、ふいに、畠山の足の状態のことを思い出す。
「そうだ! 血はちゃんと通ってるか? 下手すると、細胞が腐って……」
ところが、畠山は、もうそこにはいなかった。
がしゃん、がしゃんとハデな音が、粗大ゴミステーションの中に響き渡る。振り返ると、いつの間にかパイプ椅子の堆積を脱出した畠山が、史惟がきちんと積み上げ直したゴミの山を、むちゃくちゃに掻き分けている。
「おい……おいこら、危ないぞ! また崩れたら、どうするつもりだ! ちょっとやめろって、やばいから! マジで!」
必死にわめきながら、史惟は大慌てで畠山に近づき、襟首を掴まえる。そして、ともかくこのゴミステーションから引っ張り出そうと、足を踏ん張った瞬間、
「見つけたぁーーーっ!!」
と叫んで、畠山が、なにか白くて丸い物体を、高々と差し上げた。
……電気釜、だった。
いわゆる「マイコン炊飯ジャー」だった。
なんでこんなものが、大学のゴミとして出てくるのか、史惟にはさっぱりわからない。誰か、研究室で飯を炊く講師とか、いるんだろうか……
「やたっ! 内釜もちゃんと入ってる。おおー、露受け皿まで、しっかり残ってるよー!」
呆然とした史惟の足元で、畠山は、ゲットした獲物の点検に余念がない。
やれ、おかゆモードがついてるだ、おこわも炊けるみたいだ、本体もキレイだと、騒ぎ立ててはジャーの蓋撫でさすり、頬ずりまでして喜びを露にしている。
「……つまり……こんなもののために、あれだけの苦労を……」
「そうなの。」
平然と、畠山は宣う。
「もっと入り口の側に置いといてくれればいいのにさー! 誰が捨てたか知らないけど、わざわざあんな不安定な、高い戸棚のてっぺんに置かなくても……ぐえええ」
「やっぱおまえ、1回殺す。」
制服の襟首を掴んで持ち上げる。小柄な畠山は、史惟の腕につかまって浮いてきて、足をばたばたさせて抵抗した。
これだけ元気があれば、大丈夫だろう。
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