7
生存競争
おれは猫だ。おれはおれの道を行く。
おれは、おれの食い物を調達する。
「はにゃーっ、きゅうり! そりはぁ!」
起き抜けのもしゃもしゃが、寒さに首を縮めながら、尊敬のまなざしでおれを見る。
おれの口にあるのは、まぬけな白いガーガーだ。もう、とうに息は絶えている。
「ちっ……中等部の、あひる氏じゃんか。……御愁傷様でぃす。」
手を合わせて、頭をぺこりと下げる。なんのまじないだ、そりゃ。
「ね、どしたの、これ。」
どしたもなにもない。扉を押したら開いたから、頂戴してきただけだ。
「鍵開いてたの? 今朝?」
そ。
「もしかして、今も開いてるかな……」
開いてるだろうよ、おれは閉めてこなかったんだから。
そう返事するのも聞かずに、もしゃもしゃは林の向こうへ駆けていく。
そうしていくらもたたずに、手にいっぱいの卵を抱えて帰ってきた。
「げーっと! get、get、get! いえーいっ!」
……手のある奴はそっちをとるか。
「ひひひひひ、あひるさんたち、みんな逃げまくってたよ。ほら見て見て。」
獲物を地面に並べて、にんまりと笑う。
「あひるさん。アイガモさん。ちゃぼさん。ちゃぼさん。ちゃぼさん。白色レグホンさん。あと、うずらさん。」
けけけけけ、と堪え切れないような笑い声を立てる。
「あー、でも、きゅうりのエモノにはかなわないな。……ねえ、これ、もうあとは食べないの?」
柔らかいところはあらかた喰ったからな。もうハラいっぱいよ。
「……あのう。」
なんだ。
「……もらっていいすか?」
好きにしな。
「ありがと、きゅうり。ありがとう!」
口のまわりを掃除していたおれのそばに寝転がり、ちゃんと同じ高さになってから、あたまごつんをかましてくる。
町の猫どもだって、これほどよく仕込まれたニンゲンと暮らしてる奴はいないだろうぜ。おれはだんだん、もしゃもしゃに情が移ってきている自分に気づく。
ま、悪くない。
もしゃもしゃが大きな建物に出掛けている間に、ガーガーの肉は、きれいさっぱり消えていた。
「あ、これ……あひるじゃない。あの鳥さんの羽が混じってる……」
だから言っただろうが。一度エサなんかやったが最後、奴らはここを、毎日の巡回コースに加えてしまうんだ。
大方、かみさんと二羽がかりで平らげて、骨までさらっていったんだろうよ。
「あーあ。ガラスープ作れるかどうか、やってみたかったのに……」
ちゃんとしまっておかないほうが悪い。
「だって、血だらけだったし……家の中、ニオイついたらヤだったし……」
そんなことじゃ、立派な野良にはなれねえぞ。
叱ると、しょんぼりして、寝るまでずっと、喋らなかった。
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