minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

5

  遠くの友人

 

 

「祐介! 祐介、あんた、高校今日から始まるんじゃろう? いったいいつまで寝とるんね? ちゃんと通わんのじゃったら、母ちゃんこれからすぐ、退学届け出しにいくよ。明日っから、寝藁の取り替えは全部、あんたの仕事になるんよ!」

「ああー、行く、行く、今、行きまーっス!」

 げに恐ろしきは牛飼いの母。叫んで飛び起き、大急ぎで制服に着替えながら、本宮祐介は、忌々し気な舌打ちを、めいっぱい連発する。

 世のやんちゃどもというのはつまり、学校社会に置ける自分の価値というものを、自分で人質に取りつつハシャいでおるわけで。「勉強してあげるから、こづかいちょうだい」というのがまるっきり通用しない、第一次産業でがっつり食ってる親というのも、実に、扱いづらいのである。

 1分で朝飯をかっこんで、バス停まで走る。日に3往復しかないバスに乗るのは、いつも同じ顔ぶれ。祐介と、中学生が3人。小学生二人と、看護学生がひとり。後はぜーんぶ、麓の病院に行くジジババだ。

「あれまあ、徳さん。あんた、昨日はどうしよったんね。」

「腰が痛うてのう、よう、出れんかったんじゃ。」

「ほうか。今はもうええんか。そりゃあえかった。えかったのーう。」

 もうええなら、病院へ行くな。

 

 未来のない田舎のバカばっかりが、ヒマを潰しにきている三流の公立高校で、とにかく祐介は、無事、2年生に進級した。

 かったるい始業式を、ぐにゃぐにゃとやり過ごし、教室に入ると、すぐに携帯を取り出す。そして、昨夜手に入れたばかりのアドレスに、短いメールを送る。

 ーーーおっす。ユースケだ

    そっちも今日からだろ

    晴一郎のケガ直ったか?

 まあ、返事はくれないだろうな、と、半ば以上は諦めていたのに、わりとすぐ、着信があった。

 ーーーケガは「治る」よ、バカ

    なんであたしのメアド持ってるの!

 ーーーウシカフェの掲示板にカキコしたろ

    もちろんいつでも来ていいぞ

    今度はおれんちとまってけ

    あと、おかっぱちゃんと

    ぴりかちゃんのツーショットで

    写真送ってくれー

 ーーーあなたに言ってないの

    あれは瑛一さんに言ったの

    天野くんは元気よ

    じゃ、ばいばい

 ーーーくれないと、すぐに会いに

    行っちゃうぞー

    この週末に行くぞー

    絶対行くぞー

 そしたら、ぴたっと返事が来なくなったので、これは怒らせてしもうたかな、と、少し心配になる。

 ここで大人しく引き下がるべきか、さらに押すべきか。悩んだ挙げ句、「くれよくれよー、いいじゃんか、へるもんじゃねーしー」という文を打っていたら、画面の隅に、着信のマークが点いた。

 添付ファイルがある。

 思わず、頬が緩む。

 ドキドキしながら、画像を開く。

 すると、狭い画面いっぱいに、ついこの前、知り合いになったばかりの連中が、わっとダンゴになっている写真が映し出された。

 舌を出したり、目を吊り上げたりしている野郎ども。恥ずかしそうに微笑んでいるメガネちゃん。おかっぱちゃんがいないのは、多分、写すほうに回ったせい。いちばん端には、法事のようにくそマジメな表情をした晴一郎が、おまけのように、ぽっちりと写りこんでいる。

 そして真ん中に、まだ会ったことのない、ちっちゃなかわいい女の子。

 ーーー今日はいい日だったから

    特別サービス

    じゃあ、またいつかね

 という文面を読んでいるうちに、胸の中が、不思議に暖かいものでいっぱいになる。

 晴一郎、おまえほんまに、ええ友達を見つけたのう……

 おれも、混ぜてもらえとるんじゃろうか。住んどる場所は遠くても、仲間のひとりじゃと、思うてもらえとるんじゃろうか……

 ふと、顔を上げると、ついさっきまで、この世のどん底のように淀んでいた教室の空気が、キラキラと光って見える。

 なにか、笑いに似たもので出来た、小さい粒のようなもので、いっぱいになっているような感じがする。

 

 

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20/20

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