おまけ・マイナークラブハウスの新学期 1
生存情報
「……と、いうわけで、責任の一端は俺にある。スマン、天野。」
説明を終えて、高橋奈緒志郎は、連れてきた弟妹の背中を後ろから小突き、キチッと頭を下げさせる。
「ほら、お前らも。なんて言うんだ? ん?」
「……勝手にとって、ごめんなさい。」
「ごめんなさーい。」
「ごめんなさーい。」
「どういたしまして。わざわざ、ご丁寧に。」
怒っているのか、いないのか。合宿帰りの天野晴一郎は、相も変わらず、感情の籠らない淡々とした口調で、チビどもの謝罪に応じる。
ただでさえ、陰気でホラーなその顔に、なぜだかひどい青あざや、切り傷がいっぱいについている。それを眉ひとつ動かさず、高い位置からかっくりと折り曲げて、お辞儀し返すものだから、まりあも、双子も、真剣に怯えて、びくーっと後ずさっている。
「それで……あれは今、どこに……」
と、天野が、奈緒志郎に向き直って尋ねてくる。
「ん?」
「その……演劇部長は。」
「ああ、あれな。ゆうべ、こってり油しぼって、ともかく、今日一緒にお前に謝るって約束させて、ここまで連れてきたんだが……」
車から降ろして、林の中を通り抜けている間に、かき消えた。
「青春の後ろ髪を残して、捕まるわけにはいかないんだー!」
とかなんとかいう、わけのわからん叫びを残して。
「だからまあ、どっかそこらへんに潜んでるんだろうとは思うんだが。」
「……あまり、おいしくなかったのではないでしょうか。」
「ん? なにが?」
「ぬか漬けがです。あれは、うっかりして、出すのを忘れていたものなのです。帰省中は、かき回せませんから。」
「ああ……そういえば、ちょっと、酸味がキツかった……かな。」
「粕漬けなら、もう少しましなものがあると思います。」
そう言って天野は、中庭に面したドアから、するりと園芸部の部室に入っていく。
「え? いや、いいよ、いいよ、天野。謝りにきて、土産もらうわけにいかないし……」
と、声をかけるが、まるで聞いていない。
しばらくゴトゴトと、棚をひっかき回す音がしていたが、やがてビニール袋に入れた漬け物を持って、ぬうっと出てくる。
「どうぞ、お持ちください。」
「いや……しかし。」
断るのを、まるで無視して、じっ……と袋を差し出し続ける。
仕方なく、奈緒志郎は袋を受け取り、礼を述べた。
「すまんな。母親が喜ぶ。」
「いえ。あれがお世話になりましたから。」
聞いて奈緒志郎は、ん? と、首を傾げる。
なんでお前が、ぴの字のことで、礼を言うんだ?
「お母様に、どうぞ、よろしくお伝えください……」
言いながら、畑の向こうの、ニセアカシアの林を見つめる天野の表情が、いつもより、こころなしか柔らかく、人間臭い。
まるで、自分がいない間、ぴの字が元気でドロボーしていたことに、安堵しているみたいだな、と、奈緒志郎は思う。
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