第七話 福岡滝、飛天山に幼なじみの闇を見る縁 1
暗黙の了解
~*はるやすみ・マイナークラブハウス・ごうどうがっしゅくのしおり*~
(作成・三浦光輝)
出発 : 4月2日
到着 : 4月4日 (2泊3日)
滞在先 : 飛天山の天野んち (飛天村ハ-7番地)
集合 : 2日am6:30 那賀駅三番ホーム (2880円分の切符を買って)
交通 : 那賀駅から急行で白布まで、白布で鈍行に乗り換え、終点飛天神社まで。
駅から先は、天野の地元の友人が車で運んでくれるとのこと。
参加者名
ウクレレ部 : 大村 鈴
園芸部 : 天野 晴一郎(現地合流)
演劇部 : 畠山 ぴりか
福岡 滝
思想研究会 : 山田 優哉
遊佐 峰行
歴史研究会 : 三浦 光輝
高杢 海斗
太賀 竜之介
和琴部 : 沢渡 美優
合宿の目的
文芸部亡き後、桃園会館に取り残された者同士、さらに互いの能力を知り、
結束時の戦闘能力を高めるべく精神的トレーニングに励むものである。
具体的には、飲んだり騒いだり、くっちゃべったり。
合宿のうた (ふにゃふにゃと・メロディーは各自適当に)
はーるのおやまに いったならー
へーんなきのこが あるかしらー
どーこへきえたの テーングーターケー (畠山ぴりか、昼寝の寝言より)
「ねえ滝ちゃん、これは、滝ちゃんが聞きとめたのですか?」
電車の中で、隣合わせに座ったウクレレ部長、大村鈴ちゃんが、くすくす笑いながら『合宿のうた』のところを指差し、尋ねてくる。
「え……? ああ、これね。そうそう。」
ぼんやりと窓の外を眺めていた福岡滝は、はっと我に帰って、鈴ちゃんの指先を覗きこみ、笑顔でこたえる。
「いつ?」
「決まった次の日だったかな。こたつでむにゃむにゃと……」
「きのこは、秋ですよねえ……」
「まあ、あの子の頭になら、年がら年中生えるんだろうけど。」
「そう言えば一時期、はまってましたね。図鑑眺めたりして。」
「ああ……そうね……」
「残念ですねえ、こんなに楽しみにしてたのに。」
「うん……どうなんだろうね……」
とりあえず合わせてはいるが、滝は今イチ、会話に集中できない。
頭の中は、別のことでいっぱいだった。3月の終業式の後、すぐに帰省してしまった園芸部長、天野晴一郎。もう、10日も顔を見ていない。
もうすぐ、また会える……そんな、見て清々しいような顔じゃーないにしても、だ。
「はい、ここまででなんか、質問ある? なかったら、次のページ捲ってくださーい。」
通路を挟んだ、向こう側のボックスから、歴研会長、三浦光輝の得意げな声が響いてくる。
目の上のタンコブだった思想研究会の前会長、高橋奈緒志郎が卒業して以来、なんとなく「次のしきりは僕」的な振る舞いが目立つ。他の乗客もいるし、あんまりバカっぽいことはやめて欲しいんだけど、言うのも面倒くさいので放っておく。
しおりの次のページ。
参考 : 飛天山について
飛鳥峰、羽嶋峰の2峰と、鬼首峠、鐙ヶ岳など、周辺の山岳の総称。
(天野んちのある飛天村は、飛鳥峰の麓だそーです)
那賀市羽嶋町にある飛天神社に伝わる古文書によると、安土桃山時代、
天空より独鈷の形をした白く輝く物体が飛鳥峰山頂に降り立つのを、
たくさんの農民が目撃して大騒ぎになったことがある。
が、その記録の直後に、土地の支配権が僧侶→武士へと移っていたりして、
歴史家の間ではデマ説があたりまえ。
でもオカルトの人たちの間では、UFO説が根強いらしい。
周辺のレジャー
温泉 : あっちこっちぼこぼこ湧きまくり。火山だし。
トレッキング : 手頃なコースあり。途中に足湯できる天然温泉つき。
スキー場 : 雪解けてます。
各種果樹園 : 今は何もなし。
観光牧場 : チーズとかアイスクリームとか売ってるらしい。
アスレチック : 興味なし。
パラグライダー : やだ。
乗馬 : 遠慮します。
洞窟探検 : ガイド付きツアーあり。内部はチョーさみー!!
「このページで質問……」
「はいはいはーい。」
滝の向かいに座った現・シソ研会長、山田優哉が、ぴーんと挙手する。彼もまた、高橋サンがいなくなって、ようやく少し陽が当たり始めたクチである。
「このレジャー案内、体力の要りそうなのに比例して消極的になってるカンジがするのは気のせいですかー?」
「気のせいじゃないよ。行きたかったら、ヤマダひとりで行けばいいさパラグライダー。僕は遠慮する。」
「えー、それってあたしも行きたいかもー。」
と、横から言い出したのは、歴研副会長・兼・和琴部長の沢渡美優先輩である。
「ええっ。」
と、三浦サンが驚愕の叫びを上げるのを、隣の席からにっこり見返して、
「だって前から一度やってみたいと思ってたんだもん。初心者でも、飛ぶところまで行かせてくれるのかなー?」
「さ……さあ、どうせ行かないと思ったから、そこまで調べてない……」
「着いたら、天野くんに聞いてみよう。三浦くん、一緒に飛ぶ?」
「ぼ、僕はたぶん、向いてない……」
「そーお? じゃ、ヤマダくんは?」
「……僕も、遠慮……」
それを聞くなり、三浦サンは四角いメガネをきゅっと持ち上げて、せせら笑うような顔になって言う。
「なーんだ。結局、ヤマダだって消極的じゃないか。単に僕の揚げ足を取りたかっただけなんだな、どうせ行かないだろうと思って。」
「パラグライダーに特化して言ってないだろ、アスレチックとか乗馬ならやってもいいと思ってるよ。パラグライダーだけが、ちょっとナニなだけだ。」
「僕だってスキー場がやってれば考えたさ。スキーくらいなら。」
通路を挟んで、程度の低い罵り合いをはじめる。他のメンバーはみんなやれやれという顔をしているが、美優先輩だけは、ニコニコと慈愛に満ちた微笑みを浮かべたままだ。
最近、滝にはわかってきたのだが、美優先輩は、実は確信犯である。
歴研所属の新2年生、高杢海斗や、太賀竜之介などは、
「なんで沢渡先輩って、三浦先輩みたいな、あんなヘナチョコにまで、あんなに優しくしてやるんだろうなあ?」
などと、不思議そうな顔で考えこんでいるが、どっこい、あれは立派にイジメなのである。見抜けない男ども、全員がヘナチョコだ。
まあ、一番イジメられてるご当人が、基本的には喜んでいるみたいだから、脇からあたしがどうこう言うこっちゃないけどね。そう思って、冷めた顔でふっと笑った瞬間、美優先輩と目が合った。
きゅっと細めた優し気な目が、
(ご明察……でもナイショにね!)
と、言っている(ように見える)。
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