minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

5

  ヤキソバいくついる?

 

 

 それからチビどもは、4時間、遊び倒した。

 最初、帰るわよ、帰るわよ、帰るわよと言い続けていたまりあも、中盤頃には諦めて、ため息をつきながら静観し初め……最後はなんと、一緒になって騒ぎはじめた。演劇部室に所狭しと吊り下げられた、滝ちゃん製作の本気ドレスの数々を眺めているうちに、ついに耐え切れなくなったらしい。

「ねっ……ねえねえカエルのおねえさん、これはなあに? この衣装は……」

「あー、これはオイラの親友の、タキおねえさんの最新作なんだなっ。奈良時代をイメージしたとか言ってたけど、ちょっと七夕の天女様みたいだよねー。」

「あれは?」

「あ、あれは、ここに美優先輩っていう、すごいきれいなおねえさんがいてさ。その人用に今、縫ってる最中。」

「こっちはっ?」

「あー、それは実験で作ってみたんだって。ここにカサの骨組みが入っててね。こう、ぱちんってやると、舞踏会に行くお姫様みたく、スカートがぷわーんて……」

「きっ……着てみていい?」

「いいよいいよー、ここに着替え室あるんだよー。」

 ちょうちんみたいなピンクのスカートに、ありったけのアクセサリーを飾り立てたまりあは、しばらくの間、ぼうっと鏡を見つめ続けた。

 そして、ここ数ヶ月間、ばりばりに発散していた「わたしもう子供じゃないわオーラ」をすうっと引っこめ、ディズニープリンセス気分でしゃなりしゃなりと階段を下りて、ホールの真ん中で、エア王子様と一緒に、くるくる回転しはじめる。

「おほほほほ……ほほほ……おほほほほほほ……」

「姉ちゃん、きしょーい。」

「う、うるさいわね、バカ!」

「似合ってねーし!」

「うるせーって言ってるだろ! ガキはガキ同士遊んでろよ! もうっ。」

 ドレスのまま、乱闘に加わる。海賊帽に半月刀を下げた透と、ネズミの耳と鼻としっぽをくっつけた吉宗を相手に、スカートの下から回し蹴りを連発する。

「くらあ!」

「あたんねーし」

「じゅーまんぼるとー!」

「鬼、斬り!」

「このっ、ボケガエル!」

 回廊から、それを並んで見下ろしながら、ぴの字がのんびりと感想をたれる。

「いやー、にぎやかでよろしゅうございまするな~」

「たまにだからそんなことが言えるんだ。」

 やかましさにくらくらする頭を抱えながら、奈緒志郎は応じる。

「毎日毎日、耳元でやられてみろ。確実に気が狂う。実の親でも、ふっとどこか遠くへ行きたくなっちまうほどなんだぞ。」

「へえー、高橋先輩んちも、時々親がいなくなるんだ?」

「実際にいなくなったりするわけないだろう。そういう気分になる、って話だ。うちの母親なんぞ、『あー、立ったり座ったり、こぼすなとか肘をつくなとか注意したりしないで、静かにごはん食べてみたいよー』って、しょっちゅう絶叫して……」

 と、そこまで言ってから、ぴの字発言の不思議箇所に気づく。

 先輩んちも、時々親がいなくなる。

 なんだ、『も』って。

 問いただそうとした時、携帯が鳴った。母、徹子(41)からだ。

『ナオ、今どこにいるの?』

「あー、高等部の部室。」

『チビたち、そこにいる? あんたを探すって、まりあが連れてっちゃったんだけど。』

「全員いるよ。うるさいことこの上ない。」

『こっちは静かに過ごせたわ。』

 そう言って、からからと笑う。春休みも終盤を迎え、毎日毎日朝から晩まで新小学1年生男子の大騒ぎを聞かされて、そろそろ精神的に限界に達していたから、まあ、いい親孝行になったといえばなったのだろう。

『ところで、夕飯どうするの? もう5時過ぎだけど。』

「うぞっ。」

 慌てて腕時計を見る。道理でハラが減ったと思った。俺、昼飯食ってないじゃないか。

『あんた、彼女と食べてくるんなら、ついでにその子たちも連れてってよー。そしたらあたし、残りもんでも食べて済ましとくから。』

「悪いが、全員家に帰る。俺も含めて。」

『あんたも? なんで?』

「帰る。」

『……はあはあ、そうですか。なるほどなるほど。』

 はあーっ、と非常にイヤミな感じで同情的なため息が聞こえる。なんてえ親だ。

『それじゃーしょうがない。めんどうくさいから、鉄板焼きかなんかでいい?』

「なんでもいいよ。」

『じゃ、今から買い物して……6時には帰ってる。締めのヤキソバ、4玉でいいかな? まりあとちび二人で、二人前よね。』

「いいんじゃない……あ、ちょっと、ちょっと待て。」

 携帯を下ろして、ぴの字を見る。

 電話しているわずかのスキに、ホールの天井から下げられたワイヤーロープをそーっと引き上げて、混戦中の高橋きょうだいの頭上に舞い降りてびびらせ、作り物の武器でぽかすか反撃されている、天然ボケ娘。

 さっき演劇部室に入った時、部屋の隅に、ぱんぱんに膨らんだリュックサックが転がっているのを見た。それは多分、ぴの字が今朝、合宿に参加するつもりで準備した、2泊3日の旅支度。

『もしもし……ナオ? どうしたの? もしもーっし。』

「あ、いや……」

 ーーおうち、ここだもん。

 ーーへえー、高橋先輩んちも、時々親がいなくなるんだ?

 こいつ……もしかして、行き場がないのか?

 

 

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