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帰り道
「門限、早えーからな。」
と、ミツアキが言うと、ゴーヘーが、じゃあ俺も一緒に帰るよ、などと言い出す。
「いいって別に。しょーがくせーじゃあるめーしよー。」
「いや、俺もそろそろ帰ろうと……」
「ウソつけ。いいって。お前はもーちっと食ってろよ。」
押し問答の末、ひとりで帰る事になる。こいつにそこまでさせるわけにはいかない。
「ほんじゃ、良いお年を……」
と、いちおうマトモに挨拶してドアを開けると、ぴりかサンが慌てて立ち上がって、
「あ、ミツアキ、ちょいまち、ちょいまち!」
と言う。それでミツアキは、胸のへんが、一気にあったかくなる。
「タキ、あれ、ちょうだい。あれ、どこ?」
「あー、その上、ほら、そこ。」
と滝先輩が言って、自分も立ち上がり、冷蔵庫の上にあった茶色の紙袋を取って、ぴりかサンに手渡す。それを胸に抱えこんで、ぴりかサンがぴょんぴょんと、飛び跳ねるようにしてやってくる。
「問題! この中に、なにかいいものが、はいってるでしょーか?」
あの日本酒がまだ効いているのか、ぴりかサンの声、いつにも増してピーキーだ。
「……入ってる。」
「あたりー。それは、ミツアキにあげるものでしょーか?」
「俺にくれる。」
「あーたりー。そこまで、一緒に行こう。林の中、過ぎるまで……」
そう言って、先に立って、歩き出す。
暗い林を抜けて、学園の坂道にさしかかったところで、ぴりかサンは袋を開けて、中に手をつっこむ。
「……気に入るかなー。」
「なんなんすか?」
「うん……あたしはさ、こういうの、からっきしダメなんだ。だから、タキに頼んで、作ってもらったんだけど……」
言いながら、そろそろと、中身を引っ張りだす。
街灯に照らし出されて、袋の口から覗いたそれは、どうも手袋のようだ。
「あ……どうも、ありがと……」
「これ、なんだと思う?」
「? ……手袋。」
「と、思うでしょ? 思うでしょ!? ところがどっこい、ボーシなんだなーこれがー!!」
と、得意気に言って、びゅっと一気に引っこ抜く。
てっぺんに、五本指の手袋がついた、ニットキャップだった。
「……ひきょー!!」
と叫んで、ミツアキはゲラゲラ笑う。ぴりかサンも笑いながら、またまた袋の中に手をつっこむ。
「じゃー第2問! これはなんでしょー?」
今度は、靴下が出て来た。
「ぼーし!」
「あったりー! くっそ、ミツアキ、賢いなー!」
「ったりめーすっよ!」
笑いながら、ぴりかサンが、靴下付きキャップを取り出して、ミツアキに被せる。笑いながらミツアキも、手袋の方を、ぴりかサンに被せる。
「どっすか? パンクっすか?」
「おおー、パンクだよミツアキ! なんかもう、ろーりんぐさんだーってカンジっ!」
「あなーきーいんざゆーけーってカンジっすか?」
「も、ねばーまいんどだよ、ごっど・ぶれす・ゆーだよっ。」
「なんかもうワケわかんねえすよソレ。」
笑い続けながら、つと、手を伸ばす。そして、ニットキャップごしに、ぴりかサンの頭に、ちょっとだけさわる。
途端に、あの日の顔が覗いた。
それが返事だ。俺はもう、踏みこめない。
「いっこだけ、いいっすか。」
ミツアキが、思い切ってそう言うと、ぴりかサンは、笑顔を固めたままで待つ。
「あの、次の灯りまで、」
と言って、坂道の下の方を指差す。
「一緒に歩いて欲しい。」
それで、ぴりかサンは、いつもの顔に戻る。
そして、歩き始める。
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