minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

6

  帰り道

 

 

「門限、早えーからな。」

 と、ミツアキが言うと、ゴーヘーが、じゃあ俺も一緒に帰るよ、などと言い出す。

「いいって別に。しょーがくせーじゃあるめーしよー。」

「いや、俺もそろそろ帰ろうと……」

「ウソつけ。いいって。お前はもーちっと食ってろよ。」

 押し問答の末、ひとりで帰る事になる。こいつにそこまでさせるわけにはいかない。

「ほんじゃ、良いお年を……」

 と、いちおうマトモに挨拶してドアを開けると、ぴりかサンが慌てて立ち上がって、

「あ、ミツアキ、ちょいまち、ちょいまち!」

 と言う。それでミツアキは、胸のへんが、一気にあったかくなる。

「タキ、あれ、ちょうだい。あれ、どこ?」

「あー、その上、ほら、そこ。」

 と滝先輩が言って、自分も立ち上がり、冷蔵庫の上にあった茶色の紙袋を取って、ぴりかサンに手渡す。それを胸に抱えこんで、ぴりかサンがぴょんぴょんと、飛び跳ねるようにしてやってくる。

「問題! この中に、なにかいいものが、はいってるでしょーか?」

 あの日本酒がまだ効いているのか、ぴりかサンの声、いつにも増してピーキーだ。

「……入ってる。」

「あたりー。それは、ミツアキにあげるものでしょーか?」

「俺にくれる。」

「あーたりー。そこまで、一緒に行こう。林の中、過ぎるまで……」

 そう言って、先に立って、歩き出す。

 

 暗い林を抜けて、学園の坂道にさしかかったところで、ぴりかサンは袋を開けて、中に手をつっこむ。

「……気に入るかなー。」

「なんなんすか?」

「うん……あたしはさ、こういうの、からっきしダメなんだ。だから、タキに頼んで、作ってもらったんだけど……」

 言いながら、そろそろと、中身を引っ張りだす。

 街灯に照らし出されて、袋の口から覗いたそれは、どうも手袋のようだ。

「あ……どうも、ありがと……」

「これ、なんだと思う?」

「? ……手袋。」

「と、思うでしょ?  思うでしょ!? ところがどっこい、ボーシなんだなーこれがー!!」

 と、得意気に言って、びゅっと一気に引っこ抜く。

 てっぺんに、五本指の手袋がついた、ニットキャップだった。

「……ひきょー!!」

 と叫んで、ミツアキはゲラゲラ笑う。ぴりかサンも笑いながら、またまた袋の中に手をつっこむ。

「じゃー第2問! これはなんでしょー?」

 今度は、靴下が出て来た。

「ぼーし!」

「あったりー! くっそ、ミツアキ、賢いなー!」

「ったりめーすっよ!」

 笑いながら、ぴりかサンが、靴下付きキャップを取り出して、ミツアキに被せる。笑いながらミツアキも、手袋の方を、ぴりかサンに被せる。

「どっすか? パンクっすか?」

「おおー、パンクだよミツアキ! なんかもう、ろーりんぐさんだーってカンジっ!」

「あなーきーいんざゆーけーってカンジっすか?」

「も、ねばーまいんどだよ、ごっど・ぶれす・ゆーだよっ。」

「なんかもうワケわかんねえすよソレ。」

 笑い続けながら、つと、手を伸ばす。そして、ニットキャップごしに、ぴりかサンの頭に、ちょっとだけさわる。

 途端に、あの日の顔が覗いた。

 それが返事だ。俺はもう、踏みこめない。

「いっこだけ、いいっすか。」

 ミツアキが、思い切ってそう言うと、ぴりかサンは、笑顔を固めたままで待つ。

「あの、次の灯りまで、」

 と言って、坂道の下の方を指差す。

「一緒に歩いて欲しい。」

 それで、ぴりかサンは、いつもの顔に戻る。

 そして、歩き始める。

 

 

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