minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

2

  大掃除チーム

 

 

「ぎゃああああああ」

 という悲鳴が、歴研の部室に響き渡る。

 本棚の上のホコリを払っていた高杢海斗は、またか、とうんざりしながら、ホウキとチリトリを持って、会長の三浦光輝がへたりこんでいるところへ行く。

「どこですか。」

「あ、あのタナの奥。下から2段目。」

 何冊かの歴史学の雑誌の後ろに、ひからびたチャバネゴキブリの死体があった。ホウキで掃き出し、ゴミ袋に入れる。

 途端に、三浦先輩はしゃきっと立ち上がり、呆れたような口調で言う。

「はあー、キミは実に、神経が図太いねえ……」

「それはないでしょう、先輩!」

 人に始末させておいて、なんという言い草だ。

「僕だってゴキブリはニガテです! ただ、こんなカラカラになった死体も始末できないほど、臆病じゃないってだけですよ。」

「いやー、その名を口にできると言うだけですごいと思うよ。僕にはできない。」

「その名を、って、先輩……『ゴキブリ』って言えない、って事ですか?」

 と、それだけでもう三浦先輩は、顔を歪めて耳を塞いでいる。

「ああ、聞くだにいやだ。」

「じゃあ、もしどーしても人に伝えなければいけない場合には、どうするんですか?」

「『G』と呼ぶ。」

「それじゃ伝わらないでしょう。」

「『あの虫』とか。」

「……三浦先輩。」

「なにかね。」

「ひよわ君ですね。」

 むかっ、と三浦先輩が、顔を顰める。もう何ヶ月も一緒に部活やっているので、海斗の方も、これくらいの反撃はできるようになっている。

 四角いメガネをかけ直し、三浦先輩がなにか言い返そうとしたところに、

「あー、終わったー。」

 と言いながら、和琴部長の沢渡美優先輩と、歴研の1年生、太賀竜之介が、ドアを開けて入ってきた。途端に、三浦先輩の小憎らしいツラが好青年化する。

「やあ、美優ちゃん。」

 なにがやあ、美優ちゃんだ、と海斗は頭の中で舌を出す。

「あ、歴研、まだ済んでないのね。じゃ、手伝うわ。」

「いいよ、いいよ、美優ちゃんはもう休んでて。和琴部だけでもたいへんだっただろうし。」

「でもあたし、いちおう副会長だもん。それに、太賀くん借してもらったおかげで、早く片付いたしね。さて、ここら辺の本棚でも拭こうかなー。」

 きりきりとエプロンのヒモを締め直し、手早くぞうきんを絞る。そして、テキパキと本を出して、床の上に積み上げていく。三浦先輩はしばし、自分の仕事などそっちのけで、テレテレとそれを眺める。

「あらーっ?」

 と沢渡先輩が、本棚の奥を覗きこんで、楽し気な声を上げる。

「うわあ……すごーい、こんな立派な……」

「なになに、美優ちゃん、どうしたの?」

 と、三浦先輩がすすすと寄ってこく。

 沢渡先輩が、本の後ろに手を伸ばし、巨大なカマドウマの完璧なミイラを、長い触覚でぶら下げて、三浦先輩の目の前に突き出した。

「あたし、初めてよ、こんな大きな個体、足1本の欠損もなく……あらららら、三浦くん?」

 ふらふらとよろめいた三浦先輩を、後ろの棚で頭を打つ寸前で、咄嗟に支えてやってから、

(しまった、放置するんだった。)

 と、海斗は思った。

 

 

→next

http://kijikaeko-mch.hatenablog.com/entry/omake1-3