minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

7

  真夜中の四角い画面

 

 

「姉ちゃんだけずるい、おれらだって、ケロッピーと一緒に寝たい!」

 と双子がゴネまくって、結局、リビングで4人を雑魚寝させることになった。

「すると……黒々とした淵のほとりから……なにか、ひらべった~いものを、力任せにひっぱたくような音が……ぱちーん……ぱちーん……」

 風呂へ行こうとして通りかかると、暗い部屋の中で弟妹が、四角く並べた布団の中で頭を寄せ合って、ぴの字の怪談を聞いている。

「不審に思って、はっつぁんが、そっ……と近づいていくと……淵のそばに、顔中、たわしのようなこわいひげを生やした、薄汚ーい小男が、しぼりの手ぬぐいをキリリと巻いて、地べたにうずくまっておりました……あたりには、ふしぎに甘ーいような匂いがたちこめ……台の上には……白っぽい、赤ん坊の頭ほどの丸いものが、むすうにごろごろ、ごろごろと……」

「うえぇ~……」

「ぱち、ぱちーん! と突然、ひと際大きな音を立て、男が、白い紙を束ねたようなもので、その台をひっぱたき……くわっ! とはっつぁんの顔を見据えたかと思うや、にた~りと満面の笑みを浮かべて『そ~こ~の~だ~ん~な~っ!!』」

「いやあー……」

「『まくわうりのおーやすうり~』」

「なんじゃーそれは! なめとんか、このくそぴー!!」

 怒り半分、安心半分の非難囂々大騒ぎを遠くに聞きながら、湯船に身を沈める。甘いな、弟たちよ。俺なんか『ぱちーん』のとこで、もうオチは見えてたぜ。

 

 風呂から出た奈緒志郎が、帰りにまたそっと覗きこむと、弟妹たちは、すでに寝息もわからないほどの深い眠りについている。あれだけ遊び倒したから、相当疲れたのだろう。

 しばらく眺めていると、横向きに寝ていたぴの字が、もぞもぞと寝返りをうつ。暗闇の中で、目を、ぱっちりと開けている。

「……なんだ、起きてたのか。」

 小声で言うと、ぴの字もひそひそ声で応じる。

「……先輩。」

「なんだ。」

「先輩んち、いいおうちだね。」

「まあな。」

「あたし、一生忘れない。」

「大げさだな。」

「野良だからさ、」

 ほっ、と幸福そうなため息をついて、こう続ける。

「ぴりかは野良だから……野良は、一宿一飯の恩は、ぜったいに忘れない……」

 それだけ言うと、また寝返って横を向き、布団をひっぱって、頭まですっぽりとくるまった。

 少し、迷ってから、奈緒志郎は枕元にしゃがみこむ。

 布団からはみ出た頭を、がしがしとかき回してやる。それは、まだあの建物の中で、連日大ハシャぎしていた頃、しょっちゅうふざけてやっていたこと。

 ぴの字の髪の毛は、いつもゴワゴワで、まるで梳かしたこともないみたいにもつれまくって、少し、獣くさかった。

 だが今は、この家の家族全員が使っているのと同じシャンプー、同じリンスで洗ったばかりで、まだ少し湿っていて……まるで、別人の手触りがした。

 

 そんなことはしない方がよかったのだ。案の定、ベッドに入った後、気持ちが昂って、眠れなくなる。

「あー、もう。」

 呟いて、携帯を取り出す。暗い部屋の中で、青白く、四角く光る画面は、1年越しの彼女にふられたての青年を、優しく慰めるようでもあり、あざ笑うようでもあり。

 新しい着信は、なにもなし。メールの新規作成画面を開いて、宛先に弥生のアドレスを入れる。そこまでで、あとはなにも入力できずに、ため息をついて、ぱちんと閉じる。

 しばらく考えた後、もう一度、開く。時計を見ると、午前1時を少し回ったあたり。そして今度は、美優ちゃんにメールする。

 ーーーまだ、みんな起きてるか?

 いくらも待たないうちに、返事が来た。

 ーーー寝てましたー

    山の中歩き回ってちょっとくたくた

    みんな起きてるかってことは

    合宿だって知ってるんですね?

    なんで知ってるの?

 ーーー起こしてすまん

    おいてけぼりを拾った

    すげーしょげてたぞ

    そっちは楽しくやってるのか

 ーーー拾った? あらあら

    おいてけぼりなんてしてません

    駅のホームで待ち合わせしてたら

    滝ちゃんに電話があって

    具合が悪いからってことで

    仕方なく出発したの

    やっぱり仮病?

 ーーー仮病じゃない

    精神的なものだと思う

    Pの家庭の事って何か知ってるか?

 次の返信には、しばらく時間がかかった。

 ーーーさあね。

    先輩、あまり首つっこまないほうが

    いいんじゃないですか?

 それに対し、どう返信していいのかわからず、考えこんでいるうちに、タイミングを逃してしまった。

 美優ちゃんも、それ以上、なにもよよこさなかった。おそらく、また眠りについてしまったのだろう。

 時計はもう、午前2時を回っている。まだ、眠気は訪れない。

 チビどもはおそらく、いつも通り7時前には目を覚まして、兄を叩き起こしにくるだろう。寝不足は必至だ。

 

 

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