minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

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  コドモのケーザイ

 

 

 ミツアキとは、地元のスタジオ主催の、中高生バンドのコンテストで知り合った。もう、かれこれ1年以上のつき合いになる。

 最初、業平は、自分の素性は隠していた。そういう場面で、桃李学園の生徒だ、ということがバレると、大抵やっかいなことになるからだ。

 バンドをやるには金がかかる。まずは楽器を揃えなきゃいけないし、消耗品も多い。衣装だって、普段からそれらしくキメたいし、週に1回、安いスタジオに2時間入るだけでも2、3千円はするし、その後のミーティング(実はただの飲み会)、ライブのチケットのノルマ、と、次から次へと札が飛んでいく。

 そこで、メンバーにひとり、金持ちがいれば助かる、という話になる。

 シボられた生徒は、腐るほどいる……いいとこのお坊ちゃんで、これまでは親の言うことを聞いて優等生でやってきたのが、反抗期になって、急に髪を染めて、ロックをやりだした、なんていうのがいちばんのカモだ。新品の、高価な楽器をぶら下げて、スタジオの掲示板に張られたメンバー募集の紙をチェックしているそれらしい奴を見かけたら、とりあえずふん捕まえる。

 桃李の生徒だとわかったら、甘いことを言っておだて上げて、サイドギターかなんかで加入させる。(但し、楽器が何もできなくて、使えないルックスのくせにボーカルをやらせろ、なんていうのはこの際、どんなに金があっても問題外。あと、作詞したいとか言う奴も、アブナイから敬遠される)。

 スタジオ代、飲み代はもちろんそいつのオゴリ。ライブのチケット代金もそいつ持ちにして、格安でばらまく。うまく言ってビールやジュースをハコ買いさせ、当日は飲み放題、ということにでもしておけば、客は来るし盛り上がる。後はそいつをステージに上げて、隅っこの方でちょこちょこ簡単なコードを弾かせておけば、自尊心も満足させてやれる。もちろん、アンプの音は下げておくよう、音響さんとは打ち合わせ済みだ。

 ……こういうの、確かケーザイ学用語で「富の再分配」って言うんだよな。

 しかし、そういう「再分配」を快く思わない親が出ばってきて、学校に通報するやら弁護士に相談するやら、という事態も過去には起こっているから、これからやろうと思っているみなさんは気をつけねばならない。

 ともあれ、業平は自分が、そういうカモと同じ扱いを、カン違いにしろ受けるのはごめんだったから、桃李の生徒だということは黙っていた。

 その日のコンテストで……ミツアキのバンドは、ギターのミツアキ以外はヘボ。後はまあ、ドラムが少しは使えるかなって程度。

 業平のバンドは、ベースの業平以外がヘボ。後はまあ、ボーカルの女の子、胸だけはでかいかな、って感じ。

 で音楽の方向性は似通っている、と。

 こういう場合、どういうことが起こるかというと……まず、楽屋でリーダー二人が声をかけ合う。

「あんたらすげーじゃん。」

「そっちもな。」

 などという、表向きはなんてことのないあいさつ。しかし、二人の間にはすでに、無言の密約が交わされている。

 やがて、それぞれのバンドが解散となる。

「どーゆーことだよ!」

「一緒にプロ目指すって約束だろ!」

「次のコンテスト、もうすぐじゃんか!」

 などと言う不平不満も漏れるが、そこはまあ、ぐっと大人の顔をして、

「実は、ちょっと方向性の違う物がやりたくなって……」

 などと言い、いらないのと連絡を絶つ。

 そして数日後、新しいバンドの結成と相成る。

 一旦解散。……これ、ひとりだけいつまでたっても上手くならないメンバーを、角を立てずにハズす時などにも、よく使われる手である。

 という訳で、その後も何度か同じ手を繰り返しつつ、二人のバンドは成長してきた。

 すっかり一蓮托生となった今は、桃李の生徒であることも、父親が地元の広告屋の社長であることもバレるに任せたし、場の感覚が許す程度の「再分配」も行っている。

 一人親家庭で、弦を張り替えるのも大事なライブの前だけに限ってきたミツアキは、始めは業平がスタジオ代を持とうとすると、

「お前からタカったりしたら、自分が許せねーよ。」

 と、男らしいことを言って断ろうとした。

 が、業平が、少々冗談めかしながらも、目に力を入れて、

「俺だってお前にタカられてるなんて思ってねーよ。」

 と言い返すと、黙って、笑いながら、業平の首をがっちり掴んで、揺さぶった。

 実力の釣り合った同士の関係ってえのは、いいもんだ。

 しかし、ここへ来てどうも、その二人の実力に、釣り合う他のパートの人間が、同年代には見つからなくなってきたのである。

 

 

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