minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

6

  マイナークラブハウスの果物狩り

 

 

「いいってば!」

 と、紗鳥ちゃんが断固拒否する。

「いくねーよ!」

 と、ゴーヘーが目を吊り上げて怒鳴り返す。

 また、揉め事である。ゴーヘーが紗鳥ちゃんの手首をつかまえて、それを紗鳥ちゃんが、必死に振りほどこうとしている。

 原因は、みんなで観光果樹園の入り口までやってきたところで、紗鳥ちゃんがひとりで帰ると言い出したこと。

 時間無制限で、ぶどう、桃、梨、サクランボに、各種のベリーが食べ放題、おひとり様1500円也、の入場料が、どうも彼女にとっては、払い難いものだったようだ。紗鳥ちゃんの家庭の事情については、6月頃の家族乱入事件以来、桃園会館のほぼ全員が知るところであったから、本当なら「果物狩りに行こう」という話の出た段階で、誰かがそういうことを、気にかけてあげるべきだったかもしれない。

 でも、誰も気づかないまま、ここまで来てしまった。

「そりゃ、八雲くんにとってはたいしたことない金額なんでしょう、だけど」

「金額問題じゃねー、全然ねー!」

「そうじゃなく、わけもなくお金出してもらって、平気でいられるはずが」

「へえー、じゃここでひとりで帰るのは平気なのかよ、それで俺らが」

「とにかく、帰る!」

「ふざけんな、バカ!」

 もうお互い、相手の言い分を聞いていない。

「こういう問題に、正解ってないんだよなー……」

 と、ヤマダ先輩が切な気な表情で、ため息まじりにぼそりと呟く。

「……どうする? 全員で帰る?」

 と、三浦先輩が残りのメンバーに、小声で尋ねてまわる。

「いやー、それだと彼女、余計気にしちゃうでしょ。」

「他のとこ行く? もっと、安いレジャー探してさ。」

「今から変更したんじゃ、気に病むのは一緒のような気が……」

「じゃあ……どうしようか……」

 うーむ、とみんなで考えこんでいると、ぴりかちゃんがてくてくと、二人に向かって歩いていき、ふんぞり返って呼びかける。

「ゴーヘー!」

「なんすか!」

 ぴりぴりした雰囲気のまま返事したゴーヘーに、急にへこっと頭を下げて、

「オイラも金ないのー。」

「あー、どうぞ。勝手に取ってって下さい。今、取り込み中なんで。」

 紗鳥ちゃんの手首を放さないまま、ゴーヘーがひょいっと尻を、ぴりかちゃんのほうへ突き出す。ぴりかちゃんはゴーヘーの尻ポケットから財布を出し、札を抜き取ると、

「ありがとー! ひゃっほー、ブドウブドウー!」

 と叫ぶや、電光石火で入場料を払って、果樹園の柵の中へ飛びこんでいってしまった。

「お……おーい、ぴりかちゃーん……」

 残りのメンバーも、ゴーヘーたちを気にしつつ、ひとりひとり中へ入る。気になって、最後のほうまでぐずぐずしていた海斗の袖を、沢渡先輩がつんつんと引っ張る。

「ほら、入りましょ、高杢くん。」

「で、でも……」

「いいからいいから。」

 入り口を潜って、二人の姿が見えなくなったところで、沢渡先輩は、

「……あとはゴーヘーくんにまかせましょ。」

 と、意味ありげににんまり笑い、自分もさっさと奥へ行ってしまう。

(あ……そういうことですか。)

 相変わらず、自分の鈍さに、ほとほと感心する。

 

 結局二人はそのまま、果樹園には入ってこなかった。

 日暮れ頃に、やっと帰ってきた。ずっと村の中を、ぶらぶらと歩き回っていたらしい。

「途中にソフトクリーム屋あったから、買おうとしたら、金ねーでやんの。仕方ないから内田に奢ってもらったっすよ。なー内田ー?」

 言われて紗鳥ちゃんが、困ったような、怒っているような、なんとも言えない表情でゴーヘーを見返す。そう言えばぴりかちゃん、札を抜いた後、財布をそのまま持ち去ってたっけ。わざとかうっかりか知らないけど。

「すまぬすまぬ、はいこれ、おみやげ。」

 と言ってぴりかちゃんが、箱詰めした桃を二人に差し出して、ぺこりと頭を下げる。

「あ、ども、ありあとやんす。」

「ゴーヘーの金で買っといたし。」

「なんすかそれは。みやげって言いますか普通?」

 それから二人は、縁側に座りこんで、仲良く桃を食べ始める。

 紗鳥ちゃんが一生懸命、桃の皮をきれいに剥いていく……その手つきを、ゴーヘーが子供みたいな顔をして、黙ってじっと見つめている。

 

 

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