minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

5

  マイナークラブハウスのカマド焚き

 

 

 翌朝、目を覚ますと、仏間の座卓の上に、天野からの置き手紙があった。

『 祐介と一緒に、本宮家の仕事を手伝いに行

 きます。夕方には戻ります。皆さんはご自由

 にお過ごし下さい。         天野』

「……ただでさえ、字が活字みたいだってえのに……」

 と、心底呆れ返った口調で、ヤマダ先輩が呟く。

「なーんで真っ白い紙の上に、原稿用紙みたく縦書き20字で改行して書くかね、あの男は! いったいどういう精神構造をしてるんだ!!」

「あいつのノートってぇのも、スゴイですよー。5ミリマスの中に、1文字1文字埋めてくんです。パッと見、ノートなのか本なのかわかりませんからねー。」

「そう言えば、天野先輩って階段の踊り場、90度、90度で曲がりますよね。」

「バカだな。」

「バカだ。」

 そう結論づけて、手紙を畳に放り出す。

 

 みんなで、朝食兼昼食を作る。

 天野家の台所は、昔の農家の土間に、半分だけ床を敷いて現代風の流し台を据えつけてあって、江戸と昭和の折衷、みたいな感じ。この設備で自炊するということが、すでにひとつのイベントである。

 海斗はくじ引きで負けて、土間でカマドの見張りをすることになった。お釜が噴いたら、薪を少しかき出して、火を弱くする……ただそれだけの役目なのに、

(ゴハン焦げたらどうしよう……。)

 と思うと、なんだかずうぅぅぅんとすごいストレス、すごい責任重大な感じがする。

「これまだ、噴いてませんよね?」

「まだいいですよね、大丈夫ですよね!?」

 と、おろおろ何度も聞きにいっているうちに、とうとう福岡さんが、

「あーもう! これじゃ見張りに見張りが必要じゃないの!」

 と言って、一緒に土間へ降りてきてくれた。

「高杢、セイちゃんと同じ部屋に、もう1年以上も一緒に住んでるのよね……。」

 半分は海斗に、半分はカマドの焚き口に話しかけているような半端な角度で、福岡さんが呟く。

「ええ……まあ。もうそんなになりますか。」

 と、海斗は応える。同学年だというのに、未だに福岡さん相手に、タメ口がきけない。

「普段、どんな話してんの?」

「えっ?」

 もしかして……この質問をするために、手伝いにきてくれた……?

 気づいて海斗は大急ぎで、己の記憶をかきまわす。なにかないか。今ここで、福岡さんに教えてあげられる、彼女の喜ぶようなエピソード。

 できるだけなんでもなーい顔をして、カマドを見つめて待っている福岡さんの横顔をチラ見しながら、必死になって思い出そうとしたが……なにも見つからない。焦れば焦るほど、見つからない。

「……なにも話さないの?」

「いや、そんなこともないんすけど、なんか……思い出せない。」

「はぁ?」

「いや、多分、そんなに深い話とかしてないからだと思うんすけど。事務的というか、日常生活で必要なことをちょこちょこっと、話すくらいで……。食事と風呂が終わると、あいつずーっと勉強してるし、消灯15分前にはもう寝室に籠って、しーんと静まりかえっちゃうし。多分、すぐ寝てるんだと思うけど……」

「ふぅーん……」

 つまらなそうに言って、そっぽを向く。別にそんなこと、どうでもいいんだけどね……とでも言いたげな、気だるい表情。

 その表情を見て、海斗の胸が、きゅうっと痛む。

 この福岡さんに、こんな演技をさせてしまって……それが全て、自分の至らなさのせいのような気がして……

「な……なにか思い出したら、後で、その……」

「いいわよ、別に。」

「あ。岩村先輩なら、なにか聞いてるかも。食事の時なんか、よく……」

「いいったら。」

 それと同時に、お釜の蓋がかたかたと踊りだしたので、

「ほら、噴いた。ここで弱火。」

 と言って、カマドから一歩下がる。タイミングを教えてくれるだけで、作業まで手伝ってくれるつもりはないらしい。そりゃ、そうだよね。

 火のついた薪を、大急ぎで取り出していると、背後に立った福岡さんが、またぽつんと呟くように尋ねる。

「……ぴりかの話なんて、出る?」

「へ?」

 変化球でも投げられたような心持ちで、素っ頓狂な声で聞き返して、振り返る。

 しばらく、ぽかーんとした顔で見つめているうちに……急に福岡さんの顔が怒りだす。

「ほら、火っ! さっさとしないと、底が焦げちゃうでしょ、バカっ!」

「あわわ。」

 大慌ての海斗が薪と取っ組み合っている間に、後はもう一言もなく、上がり框から奥へと消えてしまった。

 

 

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