minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

6

  冬至

 

 

 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。

 おれはおれのヒゲを信じている。

 庭の小さな建物の扉が、開かなくなる。見上げると、ぎらぎら光る、小さな鉄の塊が取りつけられている。

 それを手に取って、ぼんやりと眺めていたもしゃもしゃの後ろから、またしても突然、のっぽが声をかける。

「なぜ、自分の家に帰らないのか?」

 もしゃもしゃは、なにも言い返さない。ただ、ぴくりと肩をすくめて、足早に立ち去る。

 

 おれは猫だ。おれはおれの見たいものを見る。

 もしゃもしゃは、林の中に巣をつくる。

 少しずつ、いろんなものを運んでくる。風よけ。ふとん。食べ物をしまっておくための箱。それからあの、青い少しの火。

 天道が深く眠り、寒さが厳しくなっていくにつれ、ここで過ごす夜が、次第に増えていく。

(いよう、サバトラのだんな。ここでその娘に、あんたの卵でも抱かせるつもりかい?)

 ギィーッ、とやかましく鳴き喚きながら、カササギのやろうが、またちょっかいを出しにくる。

「みぉろろろろ……」

(また、てめえか……。すっこんでろ。)

「ギィーッ、ギィーッ……」

(ますます絆が深まっちゃってるご様子ですなあ。)

「あれぇ……キミ、あの時の鳥の人だねえ……おはよう~。」

 挨拶なんかしてやんなくていいぞ、もしゃもしゃ。こいつはそんな、たいした野郎じゃねえんだ。

(ふふん。これはどうも、お邪魔のようですな。)

(だから最初っからそう言ってるだろう、すっこんでろよ!)

「あはは……なんか、本当に言葉が通じてるみたいだね。ケンカしてるのか、情報交換なのか、よくわからないけど……」

 気楽そうに笑いながら、もしゃもしゃは巣の中へ潜りこみ、箱からチーズの塊を持ち出してきた。

「ほら。食べる? きゅうり。」

 む。

 ……できれば、このやろうの目の前で、もしゃもしゃの手から直接喰うことは、避けたい。が……

 6Pチーズには弱いんだー。

「好きだよねー、きゅうり。」

 豆粒くらいの塊を、ぱっくりと口に入れる。このねちねちした感触がたまらないー。

「きみも、どうですか?」

 と言って、もしゃもしゃがチーズをもうひとかけ、ちぎり取る。

「はい。」

 と言って、カササギ野郎のほうへころがしてやる。

(へえ? なんのつもりかな、これは……)

(させるかー!)

 びゅっと突進して、そのかけらも頂く。

「あ! きゅうりってば。それは鳥氏の分だよ……」

 そう言って、少し考えこんでから、もしゃもしゃは残ったチーズの大きな塊を、まだ細いニセアカシアの木の、できるだけ高い梢のトゲに、ぷすっと指した。

「ここ、置いとくからさ、よかったら食べてね。」

 おいおい、そんな細い枝の上じゃ、おれに取れねえじゃねえか……

「さ、部活行こうっと。今日は大掃除して、それからみんなで鍋するんだ。お魚のお鍋だって言ってたから、きゅうりもおいでよ……。」

 もしゃもしゃが立ち去る。睨み合ううちに、カササギも飛び去る。毛づくろいをしてから、おれは狩りに行く。

 しばらくして、様子を見に戻ってみたら、チーズはちゃっかりなくなっていた。

 バカなもしゃもしゃめ。あいつをつけ上がらせて、いいことなんかなにもないぞ。

 おれは猫だ。カラスの一族なんか、大キライだ……。

 

 

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