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冬至
おれは猫だ。おれはおれの道を行く。
おれはおれのヒゲを信じている。
庭の小さな建物の扉が、開かなくなる。見上げると、ぎらぎら光る、小さな鉄の塊が取りつけられている。
それを手に取って、ぼんやりと眺めていたもしゃもしゃの後ろから、またしても突然、のっぽが声をかける。
「なぜ、自分の家に帰らないのか?」
もしゃもしゃは、なにも言い返さない。ただ、ぴくりと肩をすくめて、足早に立ち去る。
おれは猫だ。おれはおれの見たいものを見る。
もしゃもしゃは、林の中に巣をつくる。
少しずつ、いろんなものを運んでくる。風よけ。ふとん。食べ物をしまっておくための箱。それからあの、青い少しの火。
天道が深く眠り、寒さが厳しくなっていくにつれ、ここで過ごす夜が、次第に増えていく。
(いよう、サバトラのだんな。ここでその娘に、あんたの卵でも抱かせるつもりかい?)
ギィーッ、とやかましく鳴き喚きながら、カササギのやろうが、またちょっかいを出しにくる。
「みぉろろろろ……」
(また、てめえか……。すっこんでろ。)
「ギィーッ、ギィーッ……」
(ますます絆が深まっちゃってるご様子ですなあ。)
「あれぇ……キミ、あの時の鳥の人だねえ……おはよう~。」
挨拶なんかしてやんなくていいぞ、もしゃもしゃ。こいつはそんな、たいした野郎じゃねえんだ。
(ふふん。これはどうも、お邪魔のようですな。)
(だから最初っからそう言ってるだろう、すっこんでろよ!)
「あはは……なんか、本当に言葉が通じてるみたいだね。ケンカしてるのか、情報交換なのか、よくわからないけど……」
気楽そうに笑いながら、もしゃもしゃは巣の中へ潜りこみ、箱からチーズの塊を持ち出してきた。
「ほら。食べる? きゅうり。」
む。
……できれば、このやろうの目の前で、もしゃもしゃの手から直接喰うことは、避けたい。が……
6Pチーズには弱いんだー。
「好きだよねー、きゅうり。」
豆粒くらいの塊を、ぱっくりと口に入れる。このねちねちした感触がたまらないー。
「きみも、どうですか?」
と言って、もしゃもしゃがチーズをもうひとかけ、ちぎり取る。
「はい。」
と言って、カササギ野郎のほうへころがしてやる。
(へえ? なんのつもりかな、これは……)
(させるかー!)
びゅっと突進して、そのかけらも頂く。
「あ! きゅうりってば。それは鳥氏の分だよ……」
そう言って、少し考えこんでから、もしゃもしゃは残ったチーズの大きな塊を、まだ細いニセアカシアの木の、できるだけ高い梢のトゲに、ぷすっと指した。
「ここ、置いとくからさ、よかったら食べてね。」
おいおい、そんな細い枝の上じゃ、おれに取れねえじゃねえか……
「さ、部活行こうっと。今日は大掃除して、それからみんなで鍋するんだ。お魚のお鍋だって言ってたから、きゅうりもおいでよ……。」
もしゃもしゃが立ち去る。睨み合ううちに、カササギも飛び去る。毛づくろいをしてから、おれは狩りに行く。
しばらくして、様子を見に戻ってみたら、チーズはちゃっかりなくなっていた。
バカなもしゃもしゃめ。あいつをつけ上がらせて、いいことなんかなにもないぞ。
おれは猫だ。カラスの一族なんか、大キライだ……。
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