minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

4

  カササギ

 

 

 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。

 おれのヒゲは、朝の光にふるえてる。

 ある朝、共に目覚めたおれたちは、一緒に林の中を散歩した。

「すばらしい朝だね、きゅうり!」

 ほんとうに、すばらしい朝だ。夜中まで、しとしとと降り続けた細い雨が上がり、澄んだ大気の中を、白い光が行進する。

「ちんっ……だるげんしょーっ!!」

 なんだ、なんだ、突然。びっくりするじゃないか。

「ひひ……ゴメン、きゅうり。光がこういう風に見えるの、チンダル現象ってゆうんだってさ。オイラ、あの時はぜんぜんわかんないで、ただよーこ先輩のイキオイだけで感動しちゃってたけど……別に光だけじゃなくて、ミー散乱における? 粒子の波長? と、つぶつぶの加減が、うんたらかんたらで……」

 なんのこっちゃ、それは。

「高橋先輩がいっぱい説明してくれたけど、オイラのあたまじゃ、ちんぷんかんぷんさ。でも、みんなはちゃんと理解してるみたいなのね。賢いよなあ、このガッコの子たち……」

 上の方から突然、ギイーッ、ギイーッ、とけたたましい鳴き声。

(へっへえ! サバトラのだんな、あんた、いつからニンゲンの飼い猫になったんだい?)

 出やがったな、忌々しいカササギめ。

 一昨年あたり、どこか他所の土地から流れついたばかりのくせに、この林で、このおれさまにこんなクチを利くとは、いい度胸だ。

「めぁおろろろろろ……」

「えっ? 今の、きゅうり? そんな声出せるの?」

 もしゃもしゃがびっくりしている横で、おれはカササギに怒鳴ってやる。

(やかましい、バカ鳥。てめえ、自分と見分けがつかねえような、薄汚ねえかみさんのクチバシに、年がら年中つつかれて喜んでるようなやつに、言われたかあねえぜ。)

(身を固めねえ種族は、野良でいるうちは気位が高いが、雇われペットになった途端、ニンゲンに腹まで摩らせるっていうが……その娘の手つきは、どんなもんだい?)

(おれはこいつの猫じゃねえ。)

「うーーーおーーーーろろろろろろ……」

(こいつが、おれのニンゲンだ。おれが面倒を見てやってる。)

(へえ! こいつはたまげた! ものは言いよう、とはこのことだな!)

「ギイーッ、ギイッギイッギイッギイッ……」

「うひゃあ……なんか、会話してるぅ……」

(ふん、鳥公。てめえ、今度の春の巣がけは、うんと高い木にしとくがいいぜ。がきが何羽巣立てるもんだか、楽しみだな。)

(言われなくてもそうすらあ、羽をもたねえやつがうっかり落ちたら、脳みそカチ割れるような場所にな!)

「みぎゃあーおろろろろろ!」

「ギィーィーィー、ガシャガシャガシャガシャ!」

 叫び立てながら、カササギはいやみったらしく、もしゃもしゃの頭の、すぐ上をかすめて飛び去った。

「うわ! びっくりしたー……。あ、あの鳥の人、なんか、オイラのこと、ヤーな目で見てったよーな気が……」

 怖がらせたな、スマン。気にすんな、もしゃもしゃ。

「なんだろ……。やっぱ、オイラがニンゲンだからかな……」

 気にすんなって、だから。

 ぴょんとひと跳ねして、もしゃもしゃの前に立つ。しっぽを立てて、振り返る。

 この林は、おれのシマだ。おまえはおれのニンゲンなんだから、好きに歩けばいい。

「……うん。ありがとう。」

 言って、もしゃもしゃは、また歩き出す。

 おれは猫だ。おれの暮らしは、おれだけが持っている。

 

 

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