minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

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  minor club house

 

 

「あたしもよく知らない、行ったことないし。ただ……」

 昼食時間、学食で、食券売り場に並びながら謡ちゃんに、『桃園会館』についてたずねてみる。

「お兄ちゃんに聞いたことあるんだけど……あ、あたしのお兄ちゃん、今、ここの3年なのね。それで、あたしが高等部入る時に、いろいろ、教えてくれたんだけど……そのぅ……」

 ちょっと言いづらそうに、困ったような笑いかたをする。

「絶対、近づくなとか言われて。」

「なにに?」

「だから、桃園会館に。」

「……やっぱ、やばいとこ、な、わけ……?」

「うーん?」

 今朝のできごとを、一緒に思い出してしまって、2人で一緒に笑ってしまう。

 それで緊張が少し、ほぐれて、紗鳥は謡ちゃんに、

「もうちょっと、詳しく教えて欲しいし……あたし、今日、一緒していいかな? 邪魔でなかったら。」

 と、思い切って口に出してみる。

 こんな修羅場に巻きこまれる以前には、もちろん、部活のメンバーで食べていた。バレー部をハズされてからは、それが周りにバレないように気を使って、わざと終了ギリギリの時間に、「用があって来るの遅れちゃって急いでかきこんでます」みたいな顔で食べていた。

 謡ちゃんはにっこり笑って、

「いーよいーよー。」

 と言って、いつもの友達の待っているテーブルまで、先導してくれる。

 謡ちゃんのお昼メンバーは、1組の増田みのりさんと、3組の恩田由香さん。3人ともバトミントン部で、家族ぐるみの付き合いのある幼なじみで、付属の幼稚園の頃からの仲良しグループだそうだ。

 そういうのいいな、安全で。と思って、一瞬だけ悲しくなる。

 謡ちゃんが、今朝の八雲くんとの一件について説明すると、あとの二人は同時に、

「なにそれー!! ずるーい!!」

 と、叫んだ。

「どうしてそんなことになったのー?」

「いーなー、内田さん。八雲くんにフツーに話しかけられちゃったのー?」

「あたし、中等部3年間で、1回だけだよー、喋ったの。先生にプリント、これ八雲に渡しとけーってあずかって、ちょーラッキーって思って、『あっ、八雲くーん、これー』みたいに、すごい、頑張ってー。」

「それ頑張れてないって今の。ダメじゃんぜんぜん。」

「頑張ったの全力で。でもなんか、『あ、ほい』って受け取られちゃって。こう、手だけ出して、『あ、ほい』って。」

「わかるー!!」

 けらけらと、仲良し3人組が笑いさざめく。

「それで、そのう、桃園会館のことなんだけど……」

 と、紗鳥は遠慮がちに、質問をくり返す。

「あたし、入ったばっかだから、なんにも知らなくて……あれは、なんなの? あの、すごい古い建物は。」

「あたしらもよく知らないけど、なんか、ここが昔、桃園学園っていう名前だった頃に、事務棟かなんかだったみたいよ。」

「大正時代だっけ?」

「わかんない。でも、ともかく戦前だよね。」

「そう。それで、その頃の校舎とかは、もう全部取り壊されてるんだけど、その建物だけ、なんか残ってるって。」

「……なんのために残してあるの? なにに使ってるの?」

 そう、紗鳥が尋ねると、3人はなんだか、困ったように顔を見合わせる。しばらく目配せをし合った後で、謡ちゃんが、少し低い声で話しはじめた。

「クラブハウス、みたい。」

「え。でも、あるじゃんクラブハウス。運動部は全部、グラウンドのわきの、2階建てのあそこに入ってるし、文化部は校舎の中に、それぞれ部室を貰ってるって聞いたことあるけど……」

「その、文化部の、ね……そのう、あんまり、まともじゃない系……っていうか、オタク系、っていうか……」

「マイナー系?」

 と、増田さんが、助け舟を出す。

「そう、それ。マイナーな部が、全部あそこに入ってるって。うちの学校の部活って、最低、5人いないと、正式な部として認められないのね。その、5人がいるかいないか、っていうタイプの部が、みんなあそこを使ってるらしいんだ。それで、マイナークラブハウス、っていう別名がついてるんだけど、なに考えてんのかわかんない奴いっぱいいて、危ないから近づくなよーって、あたしなんかはお兄ちゃんには言われてるんだけど……」

 しばらく黙ってから、紗鳥はまた尋ねる。

「じゃあ……あの、八雲くんって、なに部?」

「え?」

 そう言って、3人が3人とも、初めてそこに気がついたように慌て始める。

「軽音だよね?」

「そう、思ってたけど……だって中等部、ずっと軽音だったし。」

「でも軽音、音楽室のわきに部室あるよ? でかいやつ。部員すごい多いもん。」

「じゃなんで桃園会館にいたの?」

「えー、でも、じゃあ、高等部から入らなかったのかな?」

 やいのやいのと、詮索が始まる。3人とも、もうこれ以上は、紗鳥の役に立つ情報は持っていないらしい。

 謎は謎のまま、放課後がやってくる。

 

 

 

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