minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

第十二話 遠野史惟、生身で箱庭に囚われる縁

第十二話 遠野史惟、生身で箱庭に囚われる縁 1

カウンセリングルーム 「ないよ。」 と、カウンセラーの先生は、あっさり言い捨てた。 「そんな都合のいい薬はねー。まあ、脳科学の進歩のスピードから言って、もう1、2世紀もすれば、出ないとも限らないとは思うけど。ともかく、今んとこはまだ、開発され…

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粗大ゴミ 長島風花とは、大学生協の前で待ち合わせることにしている。 あいつのいない手芸部なんて、きっとお気楽なものなんだろうな、と史惟は思う。風花はいつも、きっかり5時半に活動を切り上げて、ここへ来る。判で押したように正確に。 だから史惟は、…

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籠の鳥 坂の下で、風花と別れる。 それから史惟は、その辺をぐるっと一回りして、今来た道を、急いで引き返しはじめる。 さっき、ゴミステーションの中を見た時、気がついたのだ。 あのゴミの山は、なだれをおこしていた。本当はもっと、キチンと積み上げて…

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ゲーム開始 内部は、思った以上に暗かった。これからまだまだ、暗くなっていくだろう。 わずかな薄明かりで、史惟は、この子を挟んでいるものがなんなのかを調べる。一見、なんてことはないただの隙間に、両足を突っ込んでいるだけのように見える。 「動かせ…

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情報収集 古ぼけたソファーに上半身をもたせかけたまま、畠山はだらりと全身脱力して、動こうとしない。 最初は自分でなんとかするとまで言っていたくせに、身の回りの小さなゴミひとつ、取りのける素振りも見せなくなった。 「はうー……。おなかへったー……。…

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生殺与奪の権利 驚いたことに、畠山はキャベツを一玉、完食した。 「どういう腹をしているんだ。」 と、最早呆れを通り越した投げやりな声で、史惟は呟く。 「春キャベツ、結球ユルいもん。」 と、畠山は言い、ぽこぽこと腹鼓を打つ。 「たいした量じゃない…

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発掘 会議机。 電気ポット。 扇風機。プラスチックの書類ケース。脚が1本ない人体模型。 イーゼルが幾つか。それに絵の具箱。熱帯魚の水槽と、酸素を送り込むポンプ。 ずいぶん旧式の掃除機。ゴミの取り出し口に、ガムテープを剥がした跡が無数にある。きっ…

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再構築 掘り出されて数分立った頃、畠山が急にびっくりした顔になって、 「ふおおー!? なんじゃーこりゃー!? 今頃になってすんごい痛いー!!」 と叫び、坂道に倒れ込んで、七転八倒し始めた。 「血が通い出して、感覚が戻ってきてるんだ。」 と史惟は言い、隣…

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アドリブ役者 家族全員、夕食を食べずに、史惟の帰りを待っていた。ドアから垣間見えるダイニングテーブルの上に、鍋の準備が、きっちり整っている。 「遅かったわね。大丈夫?」 と、迎えに出てきた母さんが、少し表情を曇らせながら、優しい声で言う。 「フ…

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奥底の願いを直視する 「おーい! 命の恩人ーっ!!」 学食に、けたたましい声が響き渡る。 思わず「げっ」という顔で振り返ると、遠くの方で、足首に白い包帯を巻いた畠山ぴりかが、テーブルの脇に立って、ぶんぶんと手を振っていた。 その側には、懐かしい顔…