minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

第十三話 内田紗鳥、青春の内側から出自を観照する縁

10

おくりもの 面談は長引いた。 いや、面談が、というより、学校の面談室を使い、学校の先生たちを巻き込んだ内田家のてんやわんやが延々続いた、と言ったほうが正しいだろうか。 「小学校の時から、バレーボール一筋で……それはすごく、大切な経験をしました。…

9

残酷な友は良き友、良き友は残酷な友 「タイヘンってなんだ! なにがタイヘンなんだ!」 怒鳴りながらお父さんが、ドアのところへ走りよって、美優先輩の肩を掴んで揺さぶり始める。 「早く言え! 言わんか!!」 「あっ、あの……」 絶妙な困惑の表情で、美優先輩…

8

最も大きな望みが、鼻先にぶら下げられる。 おばあちゃんが泣いていたのには、ビックリ仰天だった。 なんて言うか……そう来ましたか! って感じだった。いつもより濃いめのお化粧をして、いい靴を履いて、ハンドバッグを抱えて。なんだか、お葬式に来た人みた…

7

解放の代償 途中、ざっと見渡した学園の来客用駐車場に、赤い車は一台もなかった。 もしかしたら、見間違いだったのかもしれない。そうでありますように、と祈りながら、長い坂道を上る。そして坂の頂上、可動式の車止めが置かれたギリギリ手前、駐車禁止の…

6

いちばん悲しいこと 「内田。なにを怒っている。」 またしても謡ちゃんの座席を占領した八雲くんが、えらく真面目な顔で言ってよこす。 「……別に怒ってない。」 と、紗鳥は応える。本当は怒っている。朝一番、八雲くんの顔を見るなり、なぜか昨日のあれやこ…

5

父帰る 食堂の入り口に、不似合いな、ぴっかぴかの赤いBMWが停まっているのを見て、紗鳥はぴたりと足を止める。 裏に回りこんで、そーっと玄関を開ける。途端に、ものすごい口喧嘩の応酬が、耳に飛びこんできた。やっぱり、お父さんが帰ってきている。 「た…

4

服のチカラ 例えばこの人。滝先輩。 入部のドタバタ騒ぎの時も思ったけど、この人はホント、わからない。 見た目は、まともなのだ。見るからに目がイッちゃってるぴりか先輩や、見るからに学校の規則を破りまくった格好をした八雲くんとは違って、いかにも真…

3

共存方法 朝いちばん、トイレの出入り口で、ばったりはち合わせたバレー部のクラスメイトに、 「あっ、おっ、おはよう……」 と、しどろもどろで声をかけたら、相手は表情と体の動きをぴたり、と一瞬静止させ、 「ああ……」 と、それだけ言って、びみょう……な笑…

2

羽化場 お金の問題は、思ったより、ずっと早く決着がついた。 「そういう相談は、関係者かどうか、より、純粋にいい教師かどうか、で選んで持ちかけたほうがいいわよ。」 という滝先輩の忠告と紹介があり、紗鳥はバレーボール部の退部問題を、監督でも、顧問…

第十三話 内田紗鳥、青春の内側から出自を観照する縁 1

異邦人 夏だ! キュウリだ! ドロボーの季節だ!! 「待てー! 演劇部長ーっ!」 中庭に、園芸部長、天野晴一郎先輩の声が、今日も陰鬱に響き渡る。 大道具置き場の開け放った窓から、新入部員の1年生、内田紗鳥はひょいと首を突き出し、下を眺める。 梅雨の晴れ…