minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

第八話 太賀竜之介、迷走の果てに為すべきことを為す縁

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僕の妹 音楽はかかっていなかった。しーんと静まり返った野梨子の部屋のドアを、竜之介は根気よく、ノックし続ける。 「野梨子。野梨子、母さんはいないよ。僕……」 「コンコンうるせーよ……さっさと入ってくりゃいーだろ、ばーか。」 ノブを回すと、鍵はかか…

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16歳、今すべきこと 「よかったら、うち来てなんか食いません?」 というゴーヘーの提案に、ぴりかちゃんと、福岡さんと、2年生3人が乗る。行きたいな、と竜之介は思ったが、さすがにうちは、そこまで寛容ではないだろう。 暮らしている施設の門限があるミ…

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Live 文化祭の時も思ったのだが、この、ゴーヘーとミツアキの二人組というのは……なんというか、ホントに、伊達じゃない。 「完全に喰ってるわね……。」 と、曲と曲の合間に福岡さんが、容赦のないコメントを発する。 「ボーカル、霞んで見えないわ。」 「歌は…

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高校生の正しい夜遊びについて。 「ぴりか。ぴりか、起きて。みんなもう帰るわよ。」 8時近く、福岡さんがぴりかちゃんを揺り起こす。 ぴりかちゃんは、目を覚ますのが、とても辛そうだ。一緒に帰っても、どうせ別れ道からこっそりUターンして戻ってこなき…

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よってたかって条件づけ 歴研の部室に入ると、副会長の沢渡美優先輩が、ひとりでなにか本を探していた。 「おはようございます。」 「あら、太賀くん。今日は遅かったのね。みんなもう、演劇部に行っちゃってるわよ。」 大正建築の桃園会館には、当然ながら…

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古い、古い力 こ、こここここ怖いいいいいい…… と、いうのが、その時竜之介の想念に流れた、たったひとつの言葉であった。 なんと言うか……死を覚悟した。ああ、なんだか今日は、ずいぶんとおかしなことばかり重なる日だと思っていたら、そうかこういうオチだ…

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巣 死ぬ思いで、なんとか授業だけは受け通したものの、部活をしに桃園会館へ行くのが、すごくしんどい。 今朝のあれは、本当に、現実にあったことなのだろうか? というか、今日、ちゃんとリアルワールドを生きてるか? 僕。 行こうか、帰ろうか、さんざん迷い…

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機械の機械 記憶の整理。 補正。修正。編集。ともかく、なんでもいいからトラウマにならないような解釈をこじつけて、できるだけ、意識の深層へ深層へ押し込む。できれば、忘却の彼方へ。 そんな作業で大忙しの脳みそが、ふと、宿題のことを思い出したのは、…

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行水つかい 起きるのは辛かった。もう、今日はずる休みしてしまいたいと、78%くらいまで本気で考えた。 でも、ああいう状態の母さんと、まる1日一緒にこの家にいるなんて、まっぴらごめんだ。風邪だ、なんていって休んだら、やれビタミン剤を飲めだ、おなか…

第八話 太賀竜之介、迷走の果てに為すべきことを為す縁 1

兄は眠れない。 「林の中……あれが死んでしまう……」 という、天野晴一郎の呟きの意味を、なんとなーく察することのできたメンバーが、ひとりだけ、存在した。 話は、2月に遡る……それは、小雨降る、寒い夜のこと。 部室に宿題を忘れてきたことに気がついて、…