minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

第一話 内田紗鳥、桃園会館に足を踏み入れたる縁

第一話 内田紗鳥、桃園会館に足を踏み入れたる縁 1

ニセアカシアの林 「死んだ方が、いい。」 そう、声に出して呟いてみると、にわかに自分のつらさが現実のものになったような気がして、紗鳥はびっくりする。 では、そう呟く以前には、このつらさは、現実のものではなかったのだろうか? そうは思えない。声に…

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特製メンチカツ定食 スポーツバックをなくしてきた、ということに気がついたのは、おばあちゃんに、 「さっちゃん、あんた洗濯ものは?」 と聞かれた時だ。 「あ……」 夕食を食べる手を止めて、もう、必死で言い訳を考えている。部活をさぼっていることが、こ…

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桃園会館 食べ過ぎの消化不良とストレスで、ずぅんと重く痛む胃袋を擦りながら、やっとの思いで登校し、下駄箱を開ける。 『こそどろ 無断欠席 サボるんならさっさと退部届け出しな めーわくなんだよ』 バンッと力一杯スチールの扉を閉めて、目の奥から沸き…

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minor club house 「あたしもよく知らない、行ったことないし。ただ……」 昼食時間、学食で、食券売り場に並びながら謡ちゃんに、『桃園会館』についてたずねてみる。 「お兄ちゃんに聞いたことあるんだけど……あ、あたしのお兄ちゃん、今、ここの3年なのね。…

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ぴりか先輩 「おーっしゃ、行くぞー内田。逃げんなー。」 行こうか、行くまいか、まだ決心してなかったのに、容赦なくお迎えが来た。 終業のチャイムが、まだ鳴り終わってもいなかった。きーんこーんかーんこーん、の、最後のこーん、が響く中、八雲くんはぴ…

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なすびのドレスとランニング まだ日の高いうちに見る桃園会館の印象は、昨日ほど不気味ではなかった。 八雲くんが、ライオンのドア・ノッカーのついた扉を開く。ぎぎぎーっとハデな音。敷居のところで紗鳥を振り返って、こいこいと手招きする。 「ひびんなく…

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魚の噴水と菜園 「はい、こっからペースダウンー。」 それほど長い距離を行かずに、ランニングは終わる。呼吸を整えながら歩いて、二人は再び、桃園会館まで戻ってきた。 ライオンのドア・ノッカーのついた扉を通り過ぎ、建物の裏手に回る。 途端に、紗鳥は…

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決壊 ピエロを捜して、紗鳥は再び、桃園会館の正面玄関にたどり着く。 ライオンのドア・ノッカーのついた扉の前で、ピエロはおいちにい、おいちにい、と元気に体操をしていた。ついさっき、あの幽霊男にこっぴどく怒られたことなんて、もう覚えてもいないみ…

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ほんとうのこと ボーンチャイナのティーセットに、香り高い紅茶。 ピッチャーにはたっぷり、クリームの濃いミルク。フランス語の書かれた紙箱から取り出された、茶色いお砂糖の固まり。 ウェッジウッドの菓子皿には、風月堂のゴーフルと、メリーズのマロング…

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ライオンと魚 久しぶりに運動したから、今日のご飯は、きれいに食べられた。 おばあちゃんは、スポーツバッグのことを聞かなかった。多分、今日は、他のことで忙しくて、忘れたんだろう。 そのおばあちゃんが、お風呂に入った隙に、紗鳥は、お母さんに、バレ…