minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

2013-11-16から1日間の記事一覧

第十四話 本宮裕介、少年時代の終わりの鐘を聞く縁 1

無防備な微笑み 飛天神社駅。夏。 赤字線の終着駅の、目に映るもの全てが古くさい待合室で、ベンチに座っているのは、二人だけ。 街の友人たちを出迎えに来た本宮祐介と、酒臭いじーさん……どう見ても、マトモな人生は送ってきてなさそうな、薄汚いホームレス…

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野生の証明 ごおお……と、風を切る音に時々邪魔されながら、バイクの後ろの晴一郎と会話する。ともかく、到着する前に、ぴりかちゃんについて質問しておきたいことが、山のようにある。 「ほしたら、あのトガリ頭は、ぴりかちゃんの部の後輩、というだけなん…

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竹馬の友 「ダチョウ牧場?」 と、何人かが声を揃えて聞き返してくる。 「最近、できたんじゃ。」 むっつりと顔を顰めて、祐介は答える。 天野の本家の、陰気な仏間。集まってきた野郎どもは追っ払ったし、スグ兄も、ぶつくさ言いながらも、次の客の送迎に行…

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幸福の食卓 翌朝、祐介は、大張り切りの母ちゃんに叩き起こされ、菜園で大量の完熟野菜の収穫を手伝わされた。 熟れすぎて皮の弾けたトマトや、色がまだらになったパプリカ、育ちすぎてボケかかったナスとキュウリとズッキーニ。それをウシカフェの調理場に…

4

訪れる気配 曲がり角のところから、バイクを降りて、押して歩く。 すぐには家に入りたくなかった。家に入って母ちゃんに、夕方の仕事を早くせいとか、そこらを片付けろとか、言われたくなかった。 だからエンジンを切って、静かにガレージに入れる。そのまま…

6

現実なんか見たくない。 メガネっ娘の鈴ちゃんは、遊佐というもっさりした野郎とつき合い出したようだ。今も隅っこのほうで、同じ皿のチーズケーキをつつきながら、しあわせそうに笑い合っている。 沢渡さんは、最初から勘定にいれてない。かわいくないわけ…

7

父あり、遠方より来たる、また楽しからずや…… 入り口に、薄汚れたじじいが突っ立っていた。 膝のすり切れたジーンズ。ピースマークのペンダント。間違いなく、昨日駅のベンチにいた、あのホームレスのじーさんだ。 「申し訳ありません。本日は貸し切りとなっ…

8

残されたこども 後片付けは、みんなが引き受けてくれた。皿やグラスを洗い、床を掃除し、テーブルや椅子を、もとの位置に戻す。 「あ、いーっすよ先輩。いいからちょっと休んでなよ。」 ボケッと座りこんでいるのが悪い気がして、観葉植物の鉢でも運ぼうかと…

9

周波数 「皆と一緒に寝るのと、僕の部屋でひとりで寝るのと、どちらがいいだろうか。」 と、晴一郎が尋ねてくる。 この連中と一緒に、わいわいやって寝るのも楽しそうな気がしたが、今日はそこまでは、ハシャげそうもない。 「久しぶりに、おまえんとこに泊…

10

自由へ 朝早く、瑛兄に叩き……いや、蹴り起こされる。 「働け。」 ずしっ、と腹に踵落とし。起きろもおはようもすっ飛ばして、そんな第一声。 「な……なんじゃあ、瑛兄。今、何時じゃ。」 「今日は母ちゃんは休みじゃけえ、代わりにおまえ働け。」 むすっと腕…