minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

2013-08-08から1日間の記事一覧

1

暖かい秋のまんなか おれは猫だ。おれはおれの道をゆく。 前頭葉は、あまりない。おれの思考は、エピソードの形を取ることはない。 もしゃもしゃはいつも喋っている。 「きゅうりさん。きゅうりさん。今日もごきげんですね。どうしてきみは、そんなにぴかぴ…

2

星の夜 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 夜、もしゃもしゃと一緒に、林を歩く。 「はー。さみーくなってきたね、きゅうり……」 夜露を踏んで歩く。もしゃもしゃを追跡するのは、なかなかおもしろい遊びだ。 「ハラへったな……。コンビニ行って、なんか買っ…

3

スープ おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれの暮らしは、おれだけが持っている。 がちん、がちんと、何度かカタそうな音の後で、小さな、青い炎が灯る。 おれがぴゅっと飛び退ると、もしゃもしゃは、 「だいじょぶだよう、きゅうり。こんな小さい火、悪…

4

カササギ おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれのヒゲは、朝の光にふるえてる。 ある朝、共に目覚めたおれたちは、一緒に林の中を散歩した。 「すばらしい朝だね、きゅうり!」 ほんとうに、すばらしい朝だ。夜中まで、しとしとと降り続けた細い雨が上が…

5

月夜茸 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれともしゃもしゃは、ニンゲンの作った坂道を越えて、雑木林まで足を伸ばす。 倒れた木を跨いだもしゃもしゃが、なにかを見つけて立ち止まる。 「あれ? この人たちって……」 朽ちたところに、平べったいきのこぼ…

6

冬至 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれはおれのヒゲを信じている。 庭の小さな建物の扉が、開かなくなる。見上げると、ぎらぎら光る、小さな鉄の塊が取りつけられている。 それを手に取って、ぼんやりと眺めていたもしゃもしゃの後ろから、またして…

7

生存競争 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれは、おれの食い物を調達する。 「はにゃーっ、きゅうり! そりはぁ!」 起き抜けのもしゃもしゃが、寒さに首を縮めながら、尊敬のまなざしでおれを見る。 おれの口にあるのは、まぬけな白いガーガーだ。もう…

8

影 おれは猫だ、おれはおれの道を行く。 おれは、おれの力を知っている。ニンゲンにはなく、猫にはある力がなんなのかを知っている。 もしゃもしゃのまわりを、おかしな影がうろつき始めた。 それは、次第に数を増し、互いに重なり合い、闇を深めていく。 「…

9

共鳴 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれはおれの為すべきこと、為すべからざることを知っている。 目覚めの季節が来て、天道の熱が日増しに強くなってきた、と、思ったところへ、雪が降った。 こんなものを見るのは、ずいぶんと久しぶりだ。多分、こ…

10

早春 おれは猫だ。おれはおれの道を行く。 おれの生は、善でも悪でもない。 なんとなく、巣のまわりを、長く離れる気になれない。 林の外周で、小鼠をいっぴき捕まえる。それをくわえてきて、入り口の前でいたぶって遊んでいたら、後ろの薮ががさがさと揺れ…