minor club house

ポプラ文庫ピュアフルから出してきたマイナークラブハウス・シリーズですが、以後はネットでやってくことにしました。とりあえず、版元との契約が切れた分から、ゆっくり載っけてきます。続きはそのあと、ボチボチとりかかる予定。

2013-08-07から1日間の記事一覧

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イオマンテ 駆けつける、という訳にはいかなかった。トゲだらけの細い枝が絡み合った薮は、容易に人を通してはくれない。 焦って突き進んでいるうちに、悲鳴の上がった方角がどちらだったのか、だんだんあやふやになってくる。 「聞こえたー?」 「あっちのほ…

9

特別侵入許可 私は誰を捜しているのだったかしら? 運動部のクラブハウス。校舎の周辺。体育館。なんだかぼうっと痺れてしまった頭で、一度歩いたところをまた横切り、引き返して、また戻る。 なにか、とてつもなく無駄な運動を繰り返しているような気持ちに…

8

消失 カウンセリングルームのドアをごんごんとノックし、返事も聞かずに乱暴に開ける。すると、デスクのこちら側に立っている、背の高い男子生徒の姿が目に入った。 「あっ……相談中!?」 しまった。いかに慌てていたとはいえ、カウンセリング中の部屋の中へ突…

7

乱気流 3年生がいなくなった食堂は、妙にひっそりかん、としていた。 静かになった、というわけではない。1、2年生たちは、相も変わらぬパワーで喋り続けている。広い天井を、わぁーん、と回る声のボリュームはそのままなのに、声の出し手の人数が少なくな…

6

オオカミと熊の森 ある程度、予想はついていたのだが、畠山かおりは、電話に出なかった。 (どこをほっつき歩いてるのよ、娘がインフルエンザかも知れないってのに!) 心の中で罵って、受話器を乱暴に叩き付ける。事務の女性が、驚いて目を丸くするのを見て、…

5

大人は、入れない 「遅れて申し訳ありません。みなさん、お席について。」 そう言って、教室を見回すなり、ぽつぽつと、空いた机に気づく。 「あら? どなたがいらっしゃらないのかしら。欠席の連絡はないはず……」 「畠山さんが、具合が悪くなったそうです。…

4

奇妙な苦悩 朝礼5分前の予鈴が鳴り、職員室を出ようとしたところで、事務の女性職員に呼びとめられる。 「柳場先生。先生のクラスの、畠山ぴりかさんのお母様から、お電話なんですけど……」 受話器を手で覆って、なにか、腑に落ちないような表情をしている。…

3

ベクトルの問題 ある意味、愛です、か……母親というのは…… 物悲しい気分で職員室に戻り、授業の準備をしながら、良子は鬱々と考え続ける。 こういう場合に、自分に照らし合わせて考える、ということができない。良子自身に、子供はない。 というか、結婚もし…

2

戦犯を裁くに酷似して 「そーですねー。こーいう事件の時、いーっちばん回復のネックになるのって、実は結構、母親だったりするんですよねー……」 妙にへろへろっ、とした、独特の軟弱そうな口調で喋りながら、桃李学園高等部専任のスクールカウンセラー、湯…

第九話 柳場良子、子供の砦に迷い込みたる縁 1

この世で最もやりきれない、しかしありふれた事件に立ち会う 卒業式も終わり、風に野の花の香りが混ざり始めた春の始め、気まぐれに逆戻りしてきた寒気団が、この地方に、数年ぶりの雪を降らせた。 桃李学園高等部教諭、柳場良子は、教え子の見舞いで訪れた…